デザイン思考研究所(現アイリーニ・ユニバーシティ)の創業者、柏野尊徳氏。デザインマネジメントの専門家、田子學氏。2人の専門家に、デザイン思考に取り組む企業は増えているのに、なぜ結果が出ないのかを聞いた。

「売り手も買い手も、周囲の関係者や環境も全部プラスにするには、社会全体へのインパクトからデザインする必要がある」
「売り手も買い手も、周囲の関係者や環境も全部プラスにするには、社会全体へのインパクトからデザインする必要がある」
柏野尊徳(かしの・たかのり)氏
アイリーニ・ユニバーシティ創業者、代表理事、CEO
慶應義塾大学総合政策学部入学後、1年間飛び級し慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程へ入学・修了。専攻はイノベーション・マネジメント。2013年に一般社団法人デザイン思考研究所を設立し、18年に一般社団法人アイリーニ・ユニバーシティと改称。米スタンフォード大学講師との共同トレーニングコース提供や、新事業/製品/サービス開発のコンサルティング、企業研修を実施

──デザイン思考に注目が集まる一方、結果が出ないといった批判も増えています。

柏野尊徳氏(以下、柏野) デザイン思考はフレームワークがシンプルなので、イノベーション自体も簡単そうに思えることが原因かもしれません。そもそも、イノベーション活動ではアウトプットよりも、その前段階のコンセプトを重視します。例えば、ターゲットとする人にどんな価値を提供するかを考え、誰も気づいていない課題を見つけ出す。そのコンセプトが重要で、アウトプットだけで善しあしを判断することは適切ではありません。海外ではコンセプトが評価されると投資が決まるケースも少なくない。米テスラのクルマも製造が数年後であるにもかかわらず、既に売れています。それは購入する人たちがコンセプトを評価しているからです。一方、日本企業は使い勝手や質感なども含めて「完成したものに価値を見いだす」ため、コンセプトだけでは評価しない傾向が強い。コンセプトを見る目を養うためにも、トレーニングは必要です。しかし、典型的な日本企業は、さほどトレーニングもせずに、成果が出ないといった話になる。有名な話ですが、独SAPや米プロクター・アンド・ギャンブルなどは、10年、20年後に結果を出すためにデザイン思考が必要だとトップが判断し、組織全体でトレーニングに取り組んでいます。そうした外資系企業と戦っても今のままでは勝ち目はないでしょう。

──デザイン思考の新しいプログラムなど、注目していることはありますか。

柏野 米d.schoolでは「ソーシャル・システムのためのデザイン」であるシステムデザインのワークショップが実験的に始まっています。NPOをはじめ非営利団体などの社会課題に取り組むワークショップで、社会の仕組みやシステムなど広い視野でデザインできる人を育てていくという内容です。米国では環境や生態系を踏まえ、社会のシステムをデザインしていくべきだという考えが浸透しつつあります。「人間中心」というデザイン思考の発想を突き詰めていくと、人間のことだけではなく、環境や社会、自然との調和も考えるべきだと気づくはずです。例えば米スターバックスもプラスチック製のストローが環境破壊につながるため、2020年までに全廃すると発表しました。この動きはまさに「人間中心」という発想だけではなく、環境や社会課題も意識したものです。私が主宰するアイリーニ・マネジメント・スクールでも19年から、ワークショップに社会課題をテーマに加えていこうと思っています。「買い物体験をデザインする」とか「映画を見る体験をより良くする」といったテーマから、NPOと協力して「街中でのゴミ捨て体験をデザインする」といった、より社会的な内容を増やしていく予定です。

──柏野さんの会社の社名が「デザイン思考研究所」から「アイリーニ・ユニバーシティ」に変更されました。それはワークショップの内容が進化したことも理由の一つなんですね。

柏野 イノベーション活動には、3つ必要なことがあります。1.起業家精神、2.デザイン思考のような方法論、3.社会へ与える影響。この3つの視点がないとイノベーションを起こすことは難しいと思います。イノベーション活動のスキルを高めるための学習として、アイリーニ・マネジメント・スクールでは、「イノベーションマネジメントコース」という3カ月で合計150時間ほどのトレーニングを用意しています。

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