伊ミラノと東京を拠点に活躍するビジネスプランナー、安西洋之氏は、デザイン思考は世界的にもブームになっているという。だが、日本のワークショップなどの現場ではメソッドばかりに目が行き、デザイン思考の本質までなかなか理解が進んでいないと危惧する。
De-Tales ltd.ディレクター
(写真/丸毛 透)
──安西さんはミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活躍しています。伊ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授の著作『突破するデザイン』(日経BP社)を日本に紹介している他、多くのデザイナーとも交流があり、デザイン経営にも造詣が深いと思います。そうした安西さんから見て、日本のデザイン思考の状況を、どう感じていますか。
安西洋之氏(以下、安西) 私はイタリアを拠点に30年近くデザインの分野に身を投じていますが、デザイン思考は日本ではもちろん、世界的にもブームとなっていると思います。新しい商品やサービスを創造するための手法とは別に、海外の大手ソフト会社が自社の商品を売り込むための「ツール」として利用する例もあります。顧客と一緒にデザイン思考のワークショップを行うことで自社の商品を使ってもらうようにするわけです。
ただ、そうしたデザイン思考を実践している海外のソフト会社の方と話すと、デザイン思考をベースにいかにイノベーションに結び付けるか、といったことを真剣に考えている。デザイン思考を単なる発想ツールではなく、自身の考え方としてどう生かすか、といった姿勢が浸透していると感じました。
イタリアをはじめ、欧州でもスタートアップや行政の取り組みとして、「デザイン・ドリブン・イノベーション」といった用語が当たり前に使われており、既にデザイン思考は主流の考え方になりつつあります。日本では経済産業省や特許庁が先般、「デザイン経営」を宣言していました。既に行政が積極的に取り組んでいる欧州と比べると、日本はまだこれからでしょう。
海外のデザイン思考で面白い点は、「お国柄」が反映されていることです。デザイン思考はデザイナーの考え方を一般的な概念に落とし込んだものと言えますが、イタリアでは「イタリア風デザイン思考」といった表現をする人もいるくらいです。モノや空間、人といった要素をイタリアのデザインでは尊重しているので、米国のシリコンバレー流の体系化されたデザイン思考より、世の中の本質を突いているとイタリア人は自負しています。米国のデザイン思考は一般的な概念をエンジニアがアレンジしたものであり、イタリアのデザイン思考とは違うと見ている人もいます。
──米国ではデザイン思考がソフトの販売プロモーションだけの意味になっていると。
安西 それでソフトが売れるならいいのかもしれません(笑)。デザイン業界でデザイン思考を肯定的に見ている人は、今までビジネスパーソンに伝わりにくかったデザインの考え方が浸透しやすくなったと言っています。デザインについての理解が進めば、デザイン業界の恩恵につながるという訳です。実際、デザインという曖昧な世界を形にするデザイナーの存在が、多くの企業で高まっていることも事実でしょう。
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