サブスクリプション事業を成功に導くための基礎を、CustomerPerspective 代表取締役 紣川謙(かせがわ けん)氏から学ぶ本連載。最終回となる第6回は、今後のサブスクリプション事業の可能性を、食、仕事、娯楽などさまざまな分野で具体的に考察する。根底に置くのは、徹底的なカスタマー視点の維持だ。
連載の最終回である今回は、今後どのようなサブスクリプション事業の可能性があるかを考えてみましょう。そして連載を総括し、カスタマー視点を徹底して維持するためにはどうしたらよいか、私の経験を踏まえて書きたいと思います。これまでサブスクリプション事業で成功するための視点というテーマで、連載してきました。継続性という本質から、サブスクリプション事業の構築には、さまざまな特別な考慮が必要です。しかしながら、サブスクリプションは、顧客に素晴らしい価値を提供する1つの手段にすぎません。お客様をワクワクさせ、すごい!Wow!と言ってもらえるようなサービスを提供することが大切であることは、すべてのビジネスに共通することだと私は考えています。
素晴らしい体験を提供するために、今後ますます重要性が増すと思われるのが、IoTやAI(人工知能)などのテクノロジーです。例えば、私が最近使い始めたサブスクリプションサービスで最も役立っているものの1つはアプリ「Sleep Cycle:スマートアラーム目覚まし時計」です。私自身、朝起きるのが苦手という問題があり、仕事の生産性に大きく影響する睡眠を効果的にとりたいというニーズを持っていました。そこで「すっきりとした気分のよい目覚めをいつでも時間どおりに」というコピーに引かれ、Sleep Cycleの有料サービスに加入しました。データから、食事やコーヒーを遅い時間にとった時は「快眠度」が低く、適度に歩いた日には高いことが分かり、生活を改善することで快眠度を上げることができました。私にとっては「すごい!」と感じるサービスです。
テクノロジーを使った新しいサービスの考え方としては「カスタマーのニーズや問題点を解決し、素晴らしい価値と体験を提供してくれるサブスクリプション事業の構築に、どうテクノロジーを生かすことができるか」というアプローチがよいと思います。AIの活用を考えるなら、AIを使うこと自体を目的にするのではなく、例えば「機械学習で何ができるか」の理解を前提に、価値や体験をどう高めることができるのかを考えるのがよいでしょう。顧客やビジネスの状況を把握し、予測し、分類し、最適化し、エラーを発見し、あるいはリコメンドすることを通じて応えることができる、カスタマーの継続的なニーズにはどんなものがあるでしょうか? 最新のテクノロジーを活用し、サブスクリプション事業で今までに無いような顧客体験を提供する方法は無限にあると言ってもよいでしょう。
サブスクリプションの可能性
例えば、新しいサブスクリプション事業を考える切り口として、私たちの生活にとって重要な、継続性のあることを考えてみましょう。私なら衣食住・仕事・趣味・娯楽といったものが思い浮かびます。食ならどんな問題点やニーズがあるでしょうか。私のまわりの人と話をすると、「ランチをとれる場所を開拓したいが、忙しいので行く店が偏ってしまう」という話をよく聞きます。私自身は、栄養のバランスが気になります。さまざまな店のランチに行き放題のサブスクリプションがあって、私の行動範囲・履歴やフィードバックを考慮してリコメンドし、料理がおいしいだけでなく栄養が偏らないよう食のアドバイスもしてくれたら、私ならぜひ使いたいと思うでしょう。
仕事ならどうでしょうか。営業職などで、都内での移動が多いビジネスパーソンは、タクシーで移動したら時間を効率的に使えるとは分かっていても、頻繁にタクシーを利用しているとかなりの金額になってしまいます。時間を節約するために乗ったら、渋滞にはまって逆効果ということもあります。23区内でさまざまな会社のタクシーが乗り放題となり、GPSの位置情報や渋滞情報をもとに効率的な移動方法を提案してくれるサービスがあったら、ビジネスパーソンの移動効率の向上と、タクシーの空車率低減を同時に実現できるかもしれません。
娯楽ならどうでしょう。私はジャズ、クラシック、ポップスなど、さまざまなジャンルの音楽イベントやコンサートに行きます。チケット代は安くないので同じアーティストのイベントに偏ってしまいます。予約日を見過ごしてしまうのも悩みです。音楽イベントに行き放題のサブスクリプションを提供し、AIによるリコメンドやタイムリーなモバイルアラートを駆使することで、素晴らしい顧客体験を提供できる可能性がありそうです。いろいろなアーティストを知りたいがチケット代が気になるというユーザーと、多くの音楽ファンに知ってほしいがなかなかうまくいかないというアーティスト、チケットが売れ残ってしまうという興行側の問題点を、一気に解決できるサービスを構築できるかもしれません。
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