サブスクリプション事業の訴求力を検証するには、カスタマー視点・ビジネス視点からメリット・デメリットを深掘りする「ウイン・ウイン・マトリックス」が有用だ。一般的にどんなメリット、デメリットがあるのかを、CustomerPerspectiveの紣川謙(かせがわ けん)代表が解説する。
連載第1回で、サブスクリプション事業の本質は継続であると書きました。継続的な利用を約束してくれるカスタマーを多く獲得・維持し続け、期待を上回ることが、長期的なサブスクリプション事業構築に必要なこともお話ししました。継続的であることに加え、料金を定額制・使い放題としているサービスも多く存在します。定額使い放題=サブスクリプションという見方をしている解説もあるほどです。今回は、継続性というサブスクリプションの本質と、定額制という多くのサービスの共通項に焦点を絞り、カスタマー視点・ビジネス視点からメリット・デメリットを深掘りします。以上の多角的な視点から、サブスクリプション事業の訴求力を検証できるようにすることが今回の目的です。
カスタマー視点からのメリット
カスタマー視点からのメリットとしてまず挙げられるのは、事前に「決める必要がない」ということです。継続して利用するので、使う商品などは後から選べばよく、まして使い放題なら加入時に決める必要はなくなります。これに関連する「探す必要がない」というメリットもあります。良いものを探すには時間がかかります。「高品質なものが継続的に提供される」ことが分かっていて、お任せにできれば時間の節約になります。定額で使い放題のサービスであれば、多くのサービスやコンテンツを体験でき、料金によってはとてもお得になります。
皆さんもホテルのランチで、食べ放題のビュッフェメニューと個別メニューがあり、ビュッフェメニューを選んだ経験があるかもしれません。食べるものは後から選べばいいし、好きなものはいくらでも食べられるので、お得に感じるからです。
日経クロストレンドの特集「買わない時代のサブスク事業構築法」第2回に登場した高級バッグ借り放題のサービスを提供するラクサス・テクノロジーズ代表取締役社長の児玉昇司氏は「選ぶ苦しみから解放する」サービスを目指したと言っています。高級バッグは数十万円することもあるので、月額6800円という料金は2桁少なく、お得感があります。
デジタルミュージックや映画のサブスクリプションサービスは、定額制で音楽が聴き放題、映画も見放題のものが一般的です。私はかつて好きなアーティストの作品に絞って、CDやデジタルミュージックを購入していました。今やデジタルサブスクリプションのおかげで、以前とは比較にならないほど多くの作品に触れ、生活の中で音楽に接する時間が劇的に増えました。
カスタマー視点からのデメリット
カスタマー視点でデメリットとなるのは「約束しなければならない」ことによる心理的なハードルの高さです。提供されるサービスや商品をよく知っており、価値が十分に分かっていればよいのですが、そうでなければ「これから継続的にサービスを利用します」と約束することにリスクがあります。また、サブスクリプションは入会に手間がかかるのが一般的です。その一因は、クレジットカードをはじめとする継続的な支払い方法の登録にあります。
サブスクリプション事業を構築する上で重要な点の1つは「心理的ハードルの高さ」を解決することです。サブスクリプションの多くが「無料体験」を提供し、一定期間ノーリスクでサービスを利用できるようにしている理由は、ここにあります。登録のプロセスをシンプルにし、考えることなく短時間に登録できるようにすることも会員獲得を大きく左右します。私はかつてクレジットカードの入会登録フォームを徹底的に簡素化することで、獲得件数が50%も増えて驚いたことがあります。
手続きを明示し、お客さまがスムーズに退会できるようにすることも大切です。サブスクリプションの中には、退会を意図的に難しくしていると思われるサービスも目にします。「退会しないでほしい」というビジネス側の意図は分かるのですが、逆に入会の心理的ハードルを上げてしまうことにも注意すべきです。
皆さんもマーケティングを解説する記事で「顧客を囲い込む」という表現をよく目にするのではないでしょうか。私は「囲い込む」よりも「いつでも出られる」が、顧客に「ずっと会員でいたい」と思ってもらうための努力が、長期的な成長にはずっと大切だと考えています。サブスクリプション事業で成功している企業のお話を聞くと、一旦退会したが、再入会している会員が相当数存在します。一旦離れても、やめた後にサービスの価値を再度実感し、戻ってきてくれたのです。戻ってもらうには「スムーズにやめられたし、良い体験だった」という信頼感を持ってもらうことが不可欠です。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー