大手企業の参入で注目を浴びる「サブスクリプション」事業はどう構築するか。経営コンサルティングや金融業界を経て、アマゾンジャパンで10年以上にわたりマーケティングやAmazonプライムの責任者を務めた、CustomerPerspectiveの紣川謙(かせがわ けん)代表が解説。第1回は論点を整理してもらった。

サブスクリプション事業は顧客の積み上げが肝要(c)Shutterstock
サブスクリプション事業は顧客の積み上げが肝要(c)Shutterstock

 サブスクリプションサービスの急速な拡大が続いています。新しいビジネスモデルによる新規事業のアプローチとしても大いに注目されています。日経MJの2018年ヒット商品番付の「西の大関」は、サブスクリプションでした。日経クロストレンドで注目を集めた、2018年9月からの13回にわたる連載も記憶に新しいところです。下表は、連載第1回に掲載された分類図を補足したものです。

一般的に「サブスクリプション」と呼ばれているビジネスの分類図
一般的に「サブスクリプション」と呼ばれているビジネスの分類図
注:日経クロストレンド特集「買わない時代のサブスク事業構築法」の第1回に掲載された分類図に、デジタルサービスと具体例を補足した

 古くから存在する流通系のサービスに加え、音楽や映画、ソフトウエアなどのデジタルサービス、メーカーが提供するサービスも登場し、今やサブスクリプション百花繚乱(りょうらん)。「これからのビジネスモデルはサブスクリプション。経営者の多くの問題がこれで解決する」といった論調も目にします。とは言え、サブスクリプションは、果たして魔法のような解決策なのでしょうか。いわゆる「サブスクリプション」を、すべてをひとくくりに考えてよいのでしょうか。

 私はカスタマーとして、「サブスクリプション」といわれている多くのサービスを利用しており、ビジネス側からも長年さまざまなかたちで携わってきました。現在もコンサルタントとして、クライアントのサブスクリプション事業構築に関わっています。カスタマー視点とビジネス視点、コンサルタントとしての視点から、この連載では、「サブスクリプション」の共通項と本質に焦点を当てたいと思います。そして、「ビジネスを構築する上で、考えるべき基本的課題」をカバーするのを目標とします。今回はその第1回として、連載の全体像を提示します。

第2回予定 サブスクリプションの本質

 分類図の中心に、頒布会、定期購入という聞き慣れたサービスがあります。サブスクリプションは、実は古くから存在するビジネスモデルです。デジタル技術の発展や、「所有から利用へ」という価値観の変化にも乗り、その領域が大幅に拡大してきたのです。これらのビジネスに共通するのは、カスタマーとビジネスの双方がサブスクリプションを通じ、サービスの提供と継続的利用を約束することで成り立つことです。この「継続」が本質であり、ビジネスの構築には、長期的な視点が不可欠です。

 継続的な利用を約束してくれるカスタマーを多く獲得・維持し続け、その期待を上回ることができれば、長期的に素晴らしいサブスクリプション事業を構築することができるでしょう。連載の第2回では、サブスクリプションの本質を出発点とし、カスタマー視点、ビジネス視点双方からのメリット、デメリットを深掘りします。

■第2回 サブスク事業は「食べ放題ランチ」 良し悪しの整理が成功の鍵

第3回予定 素晴らしい価値と顧客体験の継続的な提供

 どんなビジネスでも、最も大切なことの1つは、お客様に「素晴らしい価値」「素晴らしい顧客体験」を提供することであると私は信じています。サービス設計において価値と顧客体験が大切なのは、サブスクリプション事業でもなんら変わりはありません。さらに、サブスクリプションは継続的なものであるため、「素晴らしい価値を継続的に提供する」「素晴らしい体験を、さまざまな場面(例:登録、利用、更新)で提供する」ための努力が不可欠となります。後者は、「素晴らしいカスタマージャーニーをデザインすること」と言い換えることもできます。

 目指すべきなのは、カスタマーの求めているものを深く理解し、期待を上回るようなサービスを提供し、継続的な努力を通じて、お客様の信頼を獲得することです。また、プライシング(料金設定)やモノのロジスティックス(モノの流れとその計画・管理)など、サービス設計上で重要かつ難しい点についても触れたいと思います。

■第3回 サブスク事業の成功への第一歩は、「顧客に提供する価値の核心」

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