新たなテクノロジーやビジネスモデルの登場によって、大幅に進化しつつある食分野。本特集は、食品にとどまらず、家電、小売り、AI・IoTといったテクノロジー分野などを幅広く巻き込んだ近未来の食の革命、「イノベー食(ショク)」の衝撃を先進事例から読み解く。第2回は、急速冷凍技術を使ってフードロス問題の解消を目指す、デイブレイクを取り上げる。
年間646万トン。この数字を見て「フードロス」という言葉が思い当たる人は、どれだけいるだろうか。すべての日本人が毎日茶碗1杯分のごはんを捨てているのと同じ規模感、というとその深刻さが少しはイメージしやすいはずだ。しかも廃棄されているのは、本来食べられる食品である。
こうした社会課題に向き合い、かつ食の魅力を高めようと奮闘しているスタートアップが、2013年創業のデイブレイク(東京・港)だ。同社は特殊急速冷凍機を専門とする国内唯一の販売・導入コンサルティング会社であり、急速冷凍した食品を流通させるECサイト「ロカフリ」も運営している。
急速冷凍とは、食品が凍る温度帯(マイナス1~マイナス5度)を通常の冷凍方法より素早く通過することで、氷の結晶を小さいまま一気に凍らせる技術のこと。それにより、食品の細胞を破壊せず、解凍したときに元の品質を最大限保つことができる。例えば通常の冷凍機で凍らせた肉を解凍すると、うまみ成分を伴ったドリップが大量に出て、同時に食感や色味なども損なわれてしまう。だが急速冷凍なら、そうした劣化がほとんどなく常温に戻せる。野菜や魚介といった生鮮食品も、加工食品も、まさしく獲れたて、出来たての状態が保てるから、消費者は食材本来のおいしさを享受できるということだ。急速冷凍は、前回定義したイノベー食を構成する5ジャンルのうち、「次世代フード」を生み出す1つのカギとなる技術と言える。
デイブレイクによると、15年ほど前から急速冷凍機自体は登場していたが、産地直送ネット通販の普及やフードロス問題の深刻化などを背景に、この5年あまりで需要が急拡大。事実、国内4メーカーの急速冷凍機を扱うデイブレイクには、海外からも含めて月150件以上の導入相談が舞い込んでおり、「以前は年間3~5億円程度だった急速冷凍機メーカーの売り上げが3倍以上に膨らんでいる」(デイブレイクの木下昌之社長)という。
同社は、こうした各急速冷凍機と食品との相性や、冷凍前の下処理から解凍までを最適化するデータを蓄積しており、水産、食肉、野菜・果物といった生産現場や、通販用のおせち料理などの加工食品工場、飲食店がこぞって急速冷凍機の導入を進めている。導入業者にとってはフードロスを減らし、かつ食材が安い時期に大量購入して価格変動リスクを抑えるなど、仕入れにも有利に働くメリットがある。
また直近では、食材に合わせて庫内の温度湿度を細かく管理できる台湾メーカーの氷温熟成機の取り扱いをスタート。最近の熟成肉ブームに乗って熟成機は普及しつつあるが、最もうまみ(アミノ酸)が増えた状態を見極めるのは職人の勘に頼っており、ピークを過ぎてうまみが目減りした状態で供されるものも少なくない。そこでデイブレイクは、「食品のアミノ酸値の推移を詳細に分析し、ピークを見極めやすくしたうえで、最高の状態のときに急速冷凍をして劣化を止めるというセット提案をしていく」(木下氏)という。熟成肉ブームは今、熟成寿司のように、より繊細な管理が求められるジャンルに波及しており、そこでのフードロスを減らす取り組みでもある。
そしてもう1つ、デイブレイクが新たに手掛けるのが、青果市場で大量に廃棄されている高級フルーツを急速冷凍し、契約オフィスに届ける「HENOHENO(ヘノヘノ)」だ。現在、都内数社でテスト展開されており、19年2月に本格始動する計画。既に定着しているオフィスグリコの冷凍フルーツ版とも言える、このサービス。一体どんなものか。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。