現場の声を社内SNSを通じて収集し、課題点があれば経営陣が即日判断。翌日には、メニューに変更を加えることもある。ITを活用した経営改革で、顧客満足度の向上を狙う。全国に69のスープ専門店を展開するスープストックトーキョー(東京・目黒)はそんな“おもてなしイノベーション”に2018年から取り組んでいる。

スープストックトーキョーは社内SNSを活用した接客の改善に取り組む
スープストックトーキョーは社内SNSを活用した接客の改善に取り組む
スープストックトーキョーの事例から得られる3つの学び
  1. 社内SNS「Smash」の開発で、経営陣が現場の意見を把握し、即日対応可能に
  2. Smashを通じて他店の取り組みを自店に取り入れやすくなり、接客力が向上
  3. 「働く仲間」意識の醸成で、本部への意見投稿のハードルを下げた

 その経営手法の具体的な事例を紹介しよう。スープストックトーキョーには、朝限定の「朝粥(がゆ)セット」というメニューがある。開店から午前10時までの間だけ販売しているセット商品で、お粥とドリンクがセットで500円のワンコインメニューだ。この朝食メニューは当初、「セット専用のお粥」しか提供できないというのが店舗にとってくせ者だった。というのも、スープストックトーキョーではレギュラーメニューでもお粥を販売している。ところが、こちらは社内ルール上、朝粥セットの対象にはできなかったからだ。

 顧客から見れば、朝粥セットという商品なのに、食べたいお粥を選べない。「これをどのように顧客に説明すべきか」という懸念が、あるアルバイトから社内SNSを通じて寄せられた。現場の意見はシステムを通じて、直接経営陣に伝わる。経営陣は「分かりづらいことを現場の従業員に説明させているほうが問題だ」と判断。翌日にはレギュラーメニューのお粥も、朝粥セットの対象商品として選べるようにルールが変更された。このように、実際に店舗で困っていることを直接に本社に伝えられる場として、独自開発した社内SNS「Smash」が機能している。

Smashを通じて各店舗の取り組みや、自身の考え方などを投稿して他店の従業員とコミュニケーションをとれる
Smashを通じて各店舗の取り組みや、自身の考え方などを投稿して他店の従業員とコミュニケーションをとれる

 Smashは、社員とアルバイトが利用できるSNS機能を持ったWeb社内報だ。メニューの紹介や各種キャンペーンの案内を確認できるのに加えて、利用者は各店舗の取り組みや、自身の考え方などを投稿できる。その投稿に対する他の利用者のコメントを通じて、店舗を超えたコミュニケーションを可能にしている。

新たな付加価値創出狙う社内SNS

 そのSmash導入のきっかけとなったのが、働き方改革だ。「当社は『世の中の体温をあげる』という理念を掲げてきたが、数年前は働いている自分たちの“体温”があがっていない状況だった」と、取締役の江澤身和氏は当時を振り返る。「体温をあげる」とは、心や体が少し豊かになり、毎日が少し楽しくなる、そんな考え方だ。

 顧客にそうした価値を提供するには、働く社員自身も体温があがるような働き方が必要だ。ところが以前のスープストックトーキョーは残業が多い、休みが取りにくい、休日でもいつ呼び出されるかわからないので休みの質が低い、など労働環境に多くの課題があった。その課題を認識してはいたものの改善に時間を要した。飲食店のような接客業は、社員の働くモチベーションが接客力に直結する。これらの課題を解決しないと、社員や共に働くアルバイトの“体温”は上がらず、会社の理念を実現できない。そう考えた江澤氏が中心となり、スープストックトーキョー流の働き方改革である「働き方開拓」に着手。働き方開拓とは、働き方や休み方を従業員一人ひとりが主体的に考えて変革していこうという考え方だ。この改革にITが一役買った。

 Smashはその一例となる。同社で行われるキャンペーンや表彰などのイベントにSmashを活用することで、新たな付加価値を生み出している。まずは、スープストックトーキョーにおけるイベントとはどのようなものかを説明しよう。

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