ラーメン専門店「一風堂」を展開する力の源カンパニーは、アルバイトが接客スキルを動画で学び、学習状況が時給の増加に結び付くシステムを開発。自ら進んで学ぶ仕組み作りで接客スキルを底上げして、顧客満足度向上につなげている。

力の源カンパニーは人材育成・評価ツール「イチトレ」を開発。従業員が自ら学ぶ仕組み作りで“おもてなしイノベーション”を実現
力の源カンパニーは人材育成・評価ツール「イチトレ」を開発。従業員が自ら学ぶ仕組み作りで“おもてなしイノベーション”を実現

 「(人材育成・評価ツール)『イチトレ』を開発したことで店舗のアルバイトの定着率が高まり、サービスの質が向上し、顧客の数が増えているという好循環が、徐々に回り始めている実感がある」。

 こう語るのは、力の源カンパニー執行役員営業本部販促担当の工藤智氏だ。同社は国内外に230店超の一風堂を展開する。2017年に開発したイチトレを、まずは国内3店舗に試験導入。運用の結果、サービスの質の高まりや、アルバイトの定着に一定の成果が見込めたことから、18年4月に全店導入した。その結果、店長が時間をかけなくても、効率的に人材育成や評価が行われるようになり、アルバイトの接客スキルも高まった。これが一風堂流の“おもてなしイノベーション”だ。

 サービス業は非正規社員の割合がとりわけ高い産業。中でも飲食、宿泊業は店長を除いて、ほとんどがアルバイトであるという店舗も珍しくない。こうした非正規社員を育成し、接客スキルを高めることが、店舗のサービスの質を大きく左右する。しかし昨今は、アルバイトの確保が難しくなっている。働き手の獲得競争が激化する中で、定着率が下がれば、新たにアルバイトを獲得するごとに、採用コスト、教育コストも高まり、収益を直撃する。

 力の源カンパニーとて例外ではない。会社の規模が拡大するにつれ、人材が確保できなかったり、採用したアルバイトの育成が追いつかなかったりする店舗が増える可能性が高まっている。店舗のサービスクオリティーの低下に対する懸念から、新規出店に急ブレーキがかかる恐れもあった。店舗の人材確保と育成が大きな経営課題になったわけだ。

 そうした課題に対して、力の源カンパニーはITを活用した新たな教育ツールを開発することで手を打った。そのツールがイチトレだ。店長の負荷を減らし、同時に育成の質と量を高めることを目指し、工藤氏がリーダーとなって開発した。

120の教材コンテンツで人材育成

 イチトレは各店舗に設置されたタブレット端末で利用する。アルバイト一人ひとりの個人用ページがシステム上に設定され、ログインすると、「コンテンツ」と呼ぶ120もの教育教材が表示される。コンテンツとは、これまで店舗で属人的に教えられてきたスキルや知識などを“一風堂スタンダード”として再分類、再整理したものだ。

 例えば、レジ打ちや、麺上げといったスキルや知識が一風堂スタンダードとして位置付けられている。各コンテンツは、3分程度の短い動画やテキストで構成されており、ちょっとした空き時間に見て学べる。

座席案内や商品の持ち運び方、レジ打ち、麺上げといった店舗運営に必要なスキルを学べる120のコンテンツを用意
座席案内や商品の持ち運び方、レジ打ち、麺上げといった店舗運営に必要なスキルを学べる120のコンテンツを用意

 イチトレで用意しているコンテンツは、入社直後から一人前になるまでの立ち上がり期間に習得すべきスキルが多い。なぜなら、勤続期間が6カ月を超えると、離職率が大幅に下がることが過去のデータ分析から明らかになっていたからだ。入社後の最初の6カ月間は、店舗でできる仕事が次々に増え、最も成長を実感できる期間。この期間に店長がきちんと新入りのアルバイトに目をかけ、教育することがサービスクオリティーの担保と、定着率の向上につながる。

 しかし、1店舗当たり平均約30人ものアルバイトが働いているにもかかわらず、たった1人の店長が全員に対してもれなく目を配るのは難しい。その結果かつては、成長実感を持てないアルバイトの早期離職が発生していた。

 これを解消し、最初の6カ月間の教育体制を整えることで、離職率の大幅な低下が見込めた。だから、入社直後から成長につながるコンテンツを重視したわけだ。「店舗でアルバイトの育成をきちんとすることが顧客満足度の向上につながり、それが業績につながると考え、人材育成に注力した」と工藤氏は言う。アルバイトからも「自分で見て学べる。ゲーム感覚でできる」といった声が上がっており、評判は上々だという。

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