串カツ田中ホールディングスが展開する居酒屋チェーン「串カツ田中」の快進撃が続いている。1号店のオープンから、わずか10年で200店舗超にまで拡大した。2018年11月期は売上高が前年同期比39%増の76億6700万円、経常利益は同35%増の7億300万円と業績は絶好調だ。IT活用による生産性向上が好調をけん引する。

業績が絶好調の串カツ田中ホールディングスは、ITを活用して接客ノウハウを全店共有することで、“おもてなしイノベーション”を実現
業績が絶好調の串カツ田中ホールディングスは、ITを活用して接客ノウハウを全店共有することで、“おもてなしイノベーション”を実現

 串カツ田中は居酒屋形態の飲食店では珍しく全席禁煙にしたり、子ども向けにソフトクリームやたこ焼きの無料提供サービスを始めたりするなど、独特なサービス戦略に注目が集まりがちだ。しかし、それだけが同社の戦略ではない。IT活用の巧者でもある。

 串カツ田中の急速な拡大路線は、十分な従業員数を確保できないリスクをはらんでいたはずだ。教育が行き届かず接客がおざなりになってしまえば、顧客離れを招く恐れもある。このリスクに対して、経営陣はITの活用で先手を打った。人手不足を補いながら、同時に“おもてなしイノベーション”の実現を目指した。ITを活用した接客の「高付加価値化」が優れた顧客体験の提供につながり、業績の好調に直結している。

従業員間の「ほめトーク」で接客レベル向上

 来店体験の高付加価値化で、重要な役割を果たしているのが、「ほめトーク」と呼ばれる、従業員同士がそれぞれのよい取り組みを褒め合う制度だ。例えば、串カツ田中のLINE公式アカウントの登録者を多く獲得した従業員がいれば、店舗の連絡グループで紹介して褒め合う。人に褒められ、評価されることで働くモチベーションの維持につながる。

 ほめトークをさらに活性化させるために、串カツ田中はITを駆使する。そのプラットフォームとなるのがチャットツールだ。従業員がスマートフォンでいつでも、ほめトークの対象となった事例をチャットで報告できる仕組みを整えた。

チャットツールを通じて、店舗の壁を越えて接客ノウハウを共有。来店者の体験向上につなげている
チャットツールを通じて、店舗の壁を越えて接客ノウハウを共有。来店者の体験向上につなげている

 導入前はほめトークは各店舗内に閉じており、店舗の壁を越えた情報共有はできていなかった。チャットツールの導入によって、全国の店舗間でノウハウを共有できるようになった。従業員はほめトークを通じて知った別店舗の接客方法などをまねしたり、改善版を試したりといった水平展開を自発的に行うように大きく変化。接客スキルが全店で底上げされ、来店体験の向上につながった。

 ちなみにこのチャット、貫啓二社長から従業員宛のメッセージが届くこともある。経営層と直接つながるホットラインを設けることで、現場の士気を高めている。

 おもてなしイノベーションの実現に必要なもう1つの要素、「効率化」にもITが活用されている。串カツ田中では、店舗の管理を主目的としてクラウドサービスを導入。全社員にアカウントを発行しており、店舗に出勤後、各自のスマートフォンで、店舗に関するさまざまな情報を一括で取得することができる。

 このサービスの導入により、店舗での事務作業は大幅に削減された。一例として、店舗の衛生管理状況の報告が挙げられる。従来は店舗の様子をカメラで撮影し、その画像をパソコンに取り込み、メールに添付してから送信。さらに、元データを保存する必要があり、手間がかかっていた。

 クラウドサービスの導入後は、タブレット端末を活用して付属のカメラで撮影するだけで、クラウド上に画像を保存することができるようになった。これにより、タスクの「効率化」が進んだ。さらに、社員間の業務の引き継ぎや、勤務シフト表、ToDoリストの管理もすべてこの仕組み上で管理しているため、複数のシステムにアクセスする手間がなくなった。こうした取り組みの結果として、店舗における開店準備や、閉店作業の時間が1時間程度短縮できた。

 これらの取り組みは、セールスフォース・ドットコムのクラウドサービスで実現している。サービスの活用によって、串カツ田中は「高付加価値化」と「効率化」の両方を実現した。

RPAの導入でさらなる生産性向上

 飲食業では、本部と店舗間で共有すべき情報が思いのほか多い。店舗ごとの売り上げ、仕入れ状況、衛生点検の結果、顧客満足度調査や従業員満足度調査の結果など、多岐にわたる情報が日常的に本部と店舗の間でやりとりされている。以前は、それぞれの目的ごとに異なるシステムを利用していたため、情報が分散化していた。従業員は取得したい情報ごとに、それぞれのシステムに都度アクセスしなければならず、作業時間はおのずと長時間に及んでいた。

串カツ田中はクラウドサービスを導入し、社内に分散していたデータの一元管理を可能にした
串カツ田中はクラウドサービスを導入し、社内に分散していたデータの一元管理を可能にした
管理画面では店舗ごとの情報が一目瞭然だ
管理画面では店舗ごとの情報が一目瞭然だ

 情報へのアクセスが非効率なため、最新の情報を得ずに業務を進めてしまうようなケースも発生していた。これが業務の質の低下を招いていた。情報管理の効率化と社員間のコミュニケーションの円滑化を併せて実現したい。その思いが、クラウドサービスの導入を後押しした。

 もっとも、クラウドサービスの導入だけでは対応しきれない業務もある。そこで、定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を積極的に試みている。本部に提出する書類の多くは、定型化された書類だ。記載すべき項目の半数以上はタイトル、名前、日時、概要など、既定の項目になっている。そうした項目はRPAで自動生成し、残りを従業員が記載すれば済むようにシステム化している。徹底した事務作業の削減に取り組んでいる。

急拡大でも離職率半減

 ITの活用による業務負荷の軽減は、離職率の低下にもつながる。串カツ田中は18年度に1年間で56店舗を新規出店した。店舗拡大に伴い、従業員は1年間で100人近く増えた。その一方で、離職率は半減している。

 「ITを活用することで高付加価値化と効率化を実現しているため、従業員満足度(ES)は高まっている。ESが高まることでおもてなしに間違いなく良い影響が出ている。結果として、顧客満足度(CS)も高まっている」と取締役の大須賀伸博営業戦略部長は語る。また、「店舗ではまだまだ紙で管理している情報も多い。なるべく多くのものをシステム上でやり取りして、どんな情報もすぐに手元に届くようにしていきたい」(大須賀氏)と続ける。今後もITへの投資を続ける考えだ。

 クラウドサービスに支えられ、従来の飲食店の働き方から進化を続ける串カツ田中の次の一手は何か。これからも目を離せそうにない。

(写真提供/串カツ田中)