陣屋コネクトの導入と同時に陣屋で行われた経営改革の最初のステップは、非効率なタスクの見直しであった。以前は、食事の際、広い敷地に点在する客室に料理を運ぶだけで、多くの時間がかかってしまっていた。そこで食事はすべて食事処にて一括して提供することにした。さらに、陣屋コネクトでデータを一元管理することで、1人で複数の顧客を担当できるようになった。

 また、当初は「料理を運ぶ担当」「炭を運ぶ担当」などと細かく従業員の役割が分かれていたため、手待ち時間が多くなっていた。そこで従業員一人ひとりが複数の役割を担うマルチタスク化を進めたことで、手待ち時間も減少さられた。陣屋コネクトを利用することで、情報連携が容易にできるようになり、誰もが様々な役割を担うことができるマルチタスク化が可能になったのだ。

 一方で、陣屋が「高付加価値化」すべきタスクとして着目したのが、料理だった。09年当時、客単価は9800円にまで低下していた。料理こそが旅館として付加価値を提供できるポイントであると考えた宮﨑夫妻は、料理メニューを大幅に見直し、原価が高い原材料も利用することで、料理の価格を上げた。また、料理の提供方法にもひと工夫を加えた。宿泊客の目の前で調理したり、配膳時にひと手間の演出を加えたりするなど、提供方法にこだわって付加価値を高めた。

顧客の期待を超える接客。客単価4倍に

 従業員が手元の端末で顧客に関する情報をリアルタイムに更新・確認できるようになった点も、料理の高付加価値化につながっている。例えば、チェックイン時の顧客とのちょっとした会話の際に、料理の好みが分かれば、受付はその情報をすかさずシステムに登録する。登録された情報は即時に調理場に伝わり、当日の食事にも反映できる。それが顧客の期待を超えた感動を呼ぶ。

従業員はタブレット端末で顧客情報をリアルタイムに把握して、接客に生かすことができる
従業員はタブレット端末で顧客情報をリアルタイムに把握して、接客に生かすことができる

 顧客との会話を通じて明らかになった顧客の好みや来訪目的などを、瞬時に共有化できるようになったことで、料理の提供や接客に顧客情報を生かせるようになり、サービスの質のさらなる向上につながった。まさしく、おもてなしのイノベーションと言えるだろう。質の高い料理とサービスを提供し、それに見合った代金を頂くという改革は顧客の満足度を高めるだけではなく、調理人や接客スタッフの「働きがい」を高める効果ももたらした。その結果、低迷していた客単価は17年に4倍にまで上昇した。

 さらに、収益が回復してきた14年には、365日営業が当たり前という旅館の“常識”を覆し、稼働率が低い火曜、水曜の定休日化に踏み切った。陣屋コネクトでデータが蓄積されてきたために、施設の稼働状況が明らかになった。その結果、非効率の解消に着手でき、働きやすい環境が次々に整備されていった。

従業員の年収が100万円近く増加

 これらの改革により、陣屋の業績は見事なV字回復を果たした。17年の客室稼働率は76%にまで高まり、同年の売上高は5億6000万円と改革前の2倍近くまで増加した。

 現在、週2日は宿泊客を受け入れないため、従業員には週2日の休みがある。また、09年当時は社員20人、パート・アルバイト100人の約120人だった従業員数は、17年には社員を30人に増やす一方で、パート・アルバイトは15人ほどとなり、約45人で運営できるようになった。生産性が向上したことで、従業員の平均年収は398万円と、100万円近く引き上げられた。09年に30%だった離職率も17年には3%にまで激減した。

 陣屋では、ITを活用しながら働き方を見直し、効率化や高付加価値化を進めることで、従業員にとっての働きやすさと働きがいの両面を改善し、持続的な生産性向上を導くことができたのだ。現在、陣屋では旅館同士の連携を深めるようなさらなるシステムの活用も模索している。