※日経トレンディ 2019年1月号の記事を再構成

人口増加に伴うタンパク質への需要拡大に、家畜の飼料となる穀物などの供給が追い付かず、世界中でタンパク質不足が巻き起こる──。そんな危機が迫るのは、2030年と目前だ。未来予測特集の第5回は人類を救う食の革新を追う。

パン、麺、擬態肉……食事すべてが藻由来になる?
パン、麺、擬態肉……食事すべてが藻由来になる?

 食品業界では今、タンパク質不足への対抗策として新たな製品が続々登場してきている。なかでも植物性タンパク質で肉製品などを代替する動きはますます加速。代表例は大豆だが、それよりも高いタンパク質含有量を誇るのが、藻類のスピルリナだ。スピルリナの商品を販売するタベルモの佐々木俊弥社長は「大豆のタンパク質含有量が4割なのに比べ、スピルリナの含有量は7割で、成長速度も速い。タンパク質生産には非常に効率的」と語る。

 同社は世界で初めて新鮮な「生」タイプのスピルリナ商品を開発。加熱処理をしないことで、粉末タイプと比べて苦みやにおいが少ないものを実現させた。その独特の風味故、日本ではなかなか定着しなかったスピルリナの認知度を高めていく構えだ。19年にはコンビニなどでも商品を展開していくという。

 次なる目標は、スピルリナの“小麦粉”化だ。タンパク質粉末として、パンや麺、擬態肉などへの活用を視野に入れる。緑色の色素を抜くことにはすでに成功しており、汎用性の高い粉末タイプで、さらに一般食材化を狙う。

 量産化を目指し、三菱商事などから総額約17億円の資金を調達。19年夏にはブルネイに新工場を建設し、年間生産量を現在の20倍の1000tまで引き上げる。この工場では、新栽培法も導入予定。必要な栄養素を溶かした水を入れた筒状のビニール内で栽培ができ、大規模な池は必要なくなる。

 ちとせ研究所の取締役最高光合成責任者の中原剣氏は「スピルリナは光合成に必要な栄養素と光、水さえあれば成長する持続可能な食材。この方法なら、どこででも栽培が可能になる」と言う。月面長期滞在に向けたJAXAの食糧生産システムの開発テーマとして、同社が提案したタンパク質生産システムが採用されるなど、宇宙での栽培も研究していく。コンパクトさを生かした家庭用タンパク質生産システムも開発中で、「3年以内には試作品が完成する見込み」(同氏)。

 新たな動物性タンパク質としては、「昆虫食」に勢いがある。13年に国連食糧農業機関が、食糧問題の解決策の一つとして推奨して以降、注目を集め始めた。14年から昆虫食のネット通販を続けるTAKEOは、「罰ゲームとしての購入ではなく、食材として求める客が増えてきた」と言う。食材として利用しやすく、昆虫食の本命ともいえるコオロギは、粉末を2週間食べ続けた結果、腸内フローラが改善されたとする米国の論文が18年に「ネイチャー」で発表された。今後は「機能性」も昆虫食のカギとなりそうだ。

 日本でも、京都大学との共同研究から派生した企業・エリーが、蚕の機能性昆虫食を打ち出そうとしている。食品に用いる分析方法で蚕を調査してみると、血糖値を下げる作用や整腸作用など、機能性を持つ成分が含まれていると判明。取締役の梶栗隆弘氏は「低糖質・高タンパクという昆虫食の特徴に加え、機能性という新しさを売りにしたい」と語る。キリンなど大手企業複数社のリソースを活用しながら商品開発を進め、19年度中には商品化する予定だ。「タンパク質危機という問題に多様な対策が登場して、市場が盛り上がることこそ、解決への一番の近道になるだろう」(同氏)。

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