※日経トレンディ 2019年1月号の記事を再構成
第3次AI(人工知能)ブームが始まってしばらくたつが、その勢いは衰える気配がない。新聞には連日「AI」の文字が躍り、国内外の多くの企業がAI開発にしのぎを削っている。この先の日本に起きる未来を予測する特集第1回は「テクノロジー」。AIはこれから真価を発揮する。

現在、AIブームをけん引しているのがディープラーニング(深層学習)。人間の脳神経を模したアルゴリズムの「ニューラルネットワーク」を何層も重ねることで、AIの性能を劇的に向上させる技術だ。これにより、画像や音声、動画などの認識精度が一気に実用レベルになり、声を認識するスマートスピーカーや、人の顔を見分けられるホームロボットなど、AIを活用した製品が次々に家庭に入り始めている。
ディープラーニングに使えるデータは年々増えている。これらの活用で、AIの真の価値を感じられるサービスが2019年以降に一気に増えるだろう。
日常的に役立ちそうなのが、SENSYなどが計画中の「パーソナルAI」。個人の好みや感性をAIに学習させた“分身”を作る試みだ。パーソナルAIができれば、例えば、新しいかばんを買いたいときに店頭でさまざまな製品を見ながら悩む必要はなくなる。パーソナルAIに頼めば、ネット上の膨大なかばんのデータベースから、デザインや機能、価格帯が自分の感覚に合う商品をピックアップしてくれるからだ。
SENSYは14年から、ユーザーが着る洋服を学習させると、好みに合うコーディネートをAIが提案してくれるアプリを公開している。この技術は、洋服以外のメーカーや流通などさまざまな企業に購買履歴の分析やマーケティングで活用されており、同社には大量の購買データが集積されつつある。十分なデータが集まって統合されると、さまざまな分野で、自分の好みに合った商品を一瞬で選べるパーソナルAIが出来上がる。さらには、プレゼントを選ぶときに、こっそり相手のパーソナルAIに好みを聞くような使い方も想定されている。「将来、買い物であれこれ悩むのは、時間を使うぜいたくな趣味になる」(SENSYの渡辺祐樹CEO)かもしれない。
習い事や勉強も大きく変わる。現在は何年もかけて学ぶ必要がある技能を、“AI先生”から効率的に、しかも安価に学べる時代が来る。例えば、カメラの前でゴルフや野球のスイングをすれば、プロと比較してどこが違うのかをAIが指摘してくれる。
ただ、AIの精度が向上しても、うまくコミュニケーションできなければ普及は難しい。そこで期待したいのが、“感情”を持ったAIだ。AIチャットボットの「りんな」では、カメラを通じて風景やものを見せた際に「わぁ、きれい!」などと感想を言う「共感視覚モデル」を開発中。こうした機能が加われば、スムーズな会話を通してAIをフル活用できるはずだ。
人間に寄り添った本当に役立つAIができる
21世紀のAI作りは、大量のデータからコンピューターが法則を見つけ出す「機械学習」が主流。06年以降、一歩進んだ機械学習の技術であるディープラーニングが確立し、画像認識や将棋対戦などで成果を上げた。近年は、スマートスピーカーやロボットなど、AIを取り入れた個人向けの製品が続々と登場。今後は、新知識の発見や人の感情の理解ができるAIが役に立つ時代になる。



【知識発見AI】
ビッグデータから、人間が気づけない法則や知識を見つけ出すAIの開発がさらに進む。習得に何十年もかかる匠の技も、AIの分析により、容易に後世に継承できるようになる
【感情・意識を理解するAI】
人の感情や意識を理解して、適切なタイミングで人にアドバイスできるAIが登場。また、AI自体が的確に感情を表現する、親しみやすいホームロボットなども開発される

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