フィギュアスケート羽生選手が練習中に中国選手と衝突するという衝撃的な“事故”をご記憶だろうか。フィギュアスケートに限らず、スポーツ選手のゲガの状態をすばやく診断するデジタルデバイスが開発されるなど、スポーツTECHの活用領域が大きく広がっている
スポーツ選手にさまざまなケガはつきものだが、その状態の軽重をデータに基づいて早期に判断できれば、ケガへの対処が迅速にできる。そんなスポーツとテクノロジーの新たな関係を示す最新デバイスが、4月9日開催「SPORTS TECH TOKYO キックオフ・カンファレンス」のピッチセッションで披露された。
その1社、米シンクシンクは2009年に脳神経外科医のジャムシド・ガハー博士が設立したスタートアップだ。米FDA(食品医薬品局)から正式認可を受けたVR(仮想現実)デバイス「EYE-SYNC」を販売している。これは米国防総省と、その研究開発パートナーでもある米ブレイン・トラウマ・ファンデーションから3600万ドルの資金を得て、脳しんとうを診断するために開発した医療機器だ。
脳しんとうは激しい対人接触プレーを伴うスポーツはもちろん、野球でフライをキャッチしようとしてフェンスに激突したり、選手同士が接触したりする転倒事故など、あらゆるスポーツシーンで発生し得る。当初は自覚がなくとも、時間が経ってから症状が現れることもあり、本人が「大丈夫」と言っても、そのままプレーを継続させると大きなリスクが伴う。
EYE-SYNCは眼球運動と眼球前庭に異常がないかを分析し、医師に異常判定に必要な材料を60秒以内に提供する機能がある。患者は頭にVRゴーグルを付け、スクリーンに表示されて移動する目標を目で追うだけでよい。その目の動きを高速度カメラで記録しており、動きに一貫性があるかどうなどの結果を、付属のタブレットデバイスで確認できる。
スタジアムや会場などに、このデバイスを用意しておけば、負傷者が出たとしても、選手が試合に戻れるか否かを60秒以内に診断できる。
EYE-SYNC技術の独自性は13の取得済み特許で裏付けられているという。この製品は脳しんとうの診断のために開発されたが、アスリートの疲労の監視や動体視力の訓練に使う応用例も増えているようだ。例えば、ケガをしたアスリートが、リハビリ期間中にデバイスを使って動体視力を鍛えるメニューを取り入れれば、怪我を負うリスクを減らせる。
軽量で持ち運びが容易なことが評価され、スポーツチームや医療機関だけでなく軍隊からも評価が高いという。すでにバスケットボールの「ゴールデンステート・ウォリアーズ」、「ワシントン・ウィザーズ」、「アトランタ・ホークス」、そして大学スポーツカンファレンスの「Pac-12」などが導入している。
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