政府が2016年の「日本再興戦略」で打ち出し18年の「未来投資戦略」でも推進しているのが、最新テクノロジーを活用したスポーツTECH市場。そのエンジンとしてスポーツツーリズムへの関心が高まっている。
日本再興戦略では、15年時点で約5兆5000億円だったスポーツ市場の規模を20年までに15兆円に拡大することを目指すとしている。スポーツ市場と一口に言っても、その構成はさまざまで、関係する企業も多岐にわたる(下図)。だが、その中で有望な成長エンジンの1つとして期待されているのがスポーツツーリズムだと、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏は、「Sport Innovation Summit Tokyo 2018」というイベントで語った。
小西美術工藝社は創立300年余りで国宝・重要文化財の補修などを手掛ける。アトキンソン氏自身も日本の文化・歴史に造詣が深い。そうした背景もあり、東京の観光振興を考える有識者会議委員、観光戦略実行推進タスクフォース有識者メンバーなどを歴任し、観光振興の観点から政府にもさまざまな提言をしている。
スポーツツーリズムは、さまざまなスポーツを観戦したり、その開催地周辺を観光したりする旅行全般を指す言葉だ。18年に3000万人を超えた訪日外国人数をさらに拡大するのに欠かせない施策の1つである。
現時点では訪日外国人数は20年までに4000万人を超えることがほぼ確実と見られているが、一方で、訪日に伴い支出する旅行消費額の目標達成に課題がある。20年までの旅行消費額目標として政府が掲げる目標は8兆円だが、17年と18年(第3四半期までの速報ベース)がそれぞれ4.4兆円、3.3兆円となり、このペースでは残る2年で目標を達成することはおそらく困難であろう。
アトキンソン氏はこの状況について、「観光現場の付加価値生産性の低さに問題がある」と分析する。国全体の観光戦略として観光地情報の発信とブランディングに力を入れ、多くの訪日旅行客に来てもらうことは成功したものの、肝心の現場での顧客体験の質が悪いことが消費額伸び悩みの原因になっていると話す。
例えば、訪日外国人にとって、コンビニの専用端末の複雑な操作や日本の住所を要求されることなど、チケットの購入という「入り口」からして不便が伴う。では海外ではどうか。例えば、米国の野球観戦では既に紙のチケットは存在しない。チケット購入は公式サイトやアプリからで、自身のスマホをかざすだけでスタジアムに入場できる。さらにご当地フードや飲み物の注文も可能で、購入から決済までをアプリだけで完結できる。しかも、注文した品物を自分の席まで届けてくれるサービスもある。
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