データサイエンティストであり、メガバンクや経営コンサルティングファームで経験を積んだ「プロ経営者」でもある一休の榊淳社長。膨大なデータに基づき日々実践するデジタルイノベーションの実際と、その裏にある独自の思考法を明かす。

一休社長
僕が社長を務める一休で、社員を評価したり、新しい施策や戦略を決定したりする基準はたった1つ。「ユーザーファースト」であるかどうか、それだけです。
時々営業の人間が、「このままだと今月の予算が厳しい。何としてでも達成しなければ」などとつぶやく声が聞こえてきます。ほかの会社なら、よくある光景なのかもしれません。
でも、僕が聞きつけたらすぐに呼んで、その社員と話すようにしています。
そしてこう言います。「予算が達成できないのは、僕らの力量が足りないからであって、その力量不足は今月中に改善できるはずがない。だったら予算達成は諦めて来月、がんばろう」と。
毎月の予算の達成なんて、僕に言わせれば、どうでもいいこと。ユーザーファーストでもなんでもなく、会社ファーストの問題だからです。
仮に、今月どころか来月も予算が達成できなかったとしても、仕方がない。それは利用者からうちのサービスが愛されていない証しだからです。予算を達成するため、新規の会員を無理にでも増やそうと、メルマガなどを連打したとしても、それで急に(会社が)愛されるようになるわけがない。たくさんメールが届いたら、利用者にとって迷惑です。そんな「アンチ・ユーザーファースト」な行動を、僕は絶対に許しません。
僕がこれほどユーザーファーストにこだわるのは、それがうちにとって唯一のゴールだからです。
当社は高級ホテル・旅館、そしてレストランなどの予約サイトを運営しています。利害関係者という意味では、サイト利用者だけでなく、ホテルや旅館など施設の関係者も重要な顧客です。
そして、サイトの使い勝手を改善したり、新しいサービスを提供したりする人間からすれば、利用者から信頼されることがゴールになる。一方、ホテルやレストランなどを受け持つ営業担当にとっては、受け持ち施設から信頼されることがゴールになります。
立場によってゴールは違うのですが、うちのような業態だと、ややもすると、利用者よりも施設の人の声に反応しがちになる。施設の関係者には直接、頻繁に会いますが、利⽤者と⾯と向かって会うことは、まずないからです。
するとどうなるか。どうしてもリアルな施設の声のほうが強くなる。バランスが崩れてしまう。
だから僕は、利用者に信頼されること、それだけがゴールであって、そのほかはゴールではないとはっきり宣言しています。
実際、利用者が増えたらホテルやレストランなどの施設からも信頼されるようになる。収益だって増えます。
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