中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。

 前回は、シールタイプからバンドタイプに「ピボット」したもようをお伝えしました。今回は製品の初お披露目として展示会に出展したところ、予想外の大きな反響を得た理由についてお伝えします。

【2017年6月30日@メール】

 「Fwd:【嬉しいご報告】読売テレビ 生中継に関して」

 そろそろ帰宅しようとWebメールを閉じかけた矢先に、コスモテック営業部長の下山卓紀さんからのメールが転送されてきた。転送元は、「wemo」が出展する「国際 文具・紙製品展(以下ISOT)」の広報担当。wemoのブースにテレビカメラが入り、生中継で放映され、スタジオでも製品が紹介されるとのことであった。

 想定外の事態にメンバーと共に驚きを隠せない。「誰か取材してくれないかなー」とボヤいていたところだったからだ。

 それにしても、なぜwemoが取材されることになったのか?「幸運が訪れた」で片付けるにはもったいない事象に思えたので、時間を取って調べてみることにした。

【7月3日@オフィス】

 テレビ取材の申し込みはこれだけではなかった。キー局の朝の情報バラエティー番組や夜のニュース番組、NHKの海外向け番組から、続々と連絡が入っているらしい。この状況に浮かれつつ、要因を調べてみることにした。

 まず分かったことは、ISOTは他の展示会に比べてマスメディアの露出が大きいということ。「日本文具大賞」というコンテストもあるらしく、受賞文具は例年大きく取り上げられているようであった。それだけでなく、おもしろ文具や便利グッズも放映されている。

 次に分かったのが、展示会主催者が各メディアに対して広報活動が積極的であること。文具の特集内容ごとにプレスリリースを出していて、その本数も他の展示会と比べて多い印象。そういえばISOTの営業担当の方が、マスコミ関係者がたくさん来るとアピールしていたことを思い出した。

 そして、主催者のプレスリリースを読んで、ようやく謎が解けた。wemoはこのリリースに掲載され、メディアの方の目に留まったのである。

 そういえば、下山さんから展示会のWebサイトの「おもしろ文具・雑貨特集」ページに、wemoが掲載されていると教えてもらったことを思い出した。そのときは、掲載されることの重要性が全く理解できていなかったのだが、そのページがそのままプレスリリースとして配信されたようだ。

掲載されたリリース (C)リードエグジビションジャパン
掲載されたリリース (C)リードエグジビションジャパン

 wemoのスペースはなんとプレスリリース(A4版)の5分の1程度。たったこれだけの情報で、TVの取材を獲得することができたのである。この事実はTVで取り上げられること以上に衝撃であった。

 ちなみに、プレスリリースに使われた画像とテキストは、どのようにして、主催者の元に渡ったのか。答えは、展示会出展時の登録情報である。経験上、ブースデザインや出展内容の精査で時間に追われ、登録情報はないがしろになりがちである。しかし、取材に至るまでの導線が明確になった今では、この登録作業に我々は全力を尽くしている。

wemoの抜粋。この画像とテキストだけで、TVの取材が決まった (C)リードエグジビションジャパン
wemoの抜粋。この画像とテキストだけで、TVの取材が決まった (C)リードエグジビションジャパン

【7月5日 展示会当日@ビッグサイト】

 別件のMTGを終わらせ、展示会会場に急ぐ。どれくらいの人が足を運んでいるのか見当もつかなかったが、心配は杞憂(きゆう)に終わる。初日にもかかわらず大盛況で、通路にはみ出すほどの人だかりができていた。無名の中小企業の展示ブースにどうやって足を止めてもらうか、苦心して考えた「シリコンバンドを壁に挿しまくる」というアイデアも、非常に機能しているようであった。

ISOTの展示ブースの様子 (C)kenma Inc.
ISOTの展示ブースの様子 (C)kenma Inc.
足を止めてもらうためにシリコンバンドを約300本挿した (C)kenma Inc.
足を止めてもらうためにシリコンバンドを約300本挿した (C)kenma Inc.

 昼ごろに予定されていたキー局の朝の情報番組の撮影も始まる。対応されていたのは、下山さん。不慣れにもかかわらず、ディレクターの質問に笑顔で答えていて、一安心。

問題なく撮影を終え、全国に向けて無事放映 (C)kenma Inc.
問題なく撮影を終え、全国に向けて無事放映 (C)kenma Inc.

【7月8日 展示会終了@ビッグサイト】

 怒とうの3日間が終了。想像をはるかに超える成果があった。TVだけでも4番組の取材があり、会期以降の取材依頼も来ているようだ。

 もちろん、展示会の本来の目的も十分に達成できた。準備していたチラシは途中でなくなってしまい、コピー機に駆け込まなければならないほど、たくさんの方がブースに足を運んでくれた。

 大手流通のバイヤーからもポジティブな反応を得られて、BtoCに舵(かじ)を切ることも考えられそうであった。これからビジネスプランを立てるのが楽しみである。

●ビジネスデザインの引き出し

 本連載では日記とは別に、各場面で役立ったフレームワークや考え方もご紹介しています。今回は、中小企業のビジネスデザイン(特にBtoC事業)において、必ず検討する「PR Driven - 広告費0円ソリューション - 」です。

 メディアや広告関係者にとっては初歩的過ぎる内容ですが、メーカーの担当者には実はあまり知られていないということを日々の業務を通して実感しております。また、私のようなデザイナーが語ることにも意味があると思い、この内容を取り上げることにします。

 実現のハードルは高いですが、「ローリスク・ハイリターン」「取り組まない理由がない」アプローチだと理解していますので、ぜひ試してみてください。

 このパートはスライドをつないだ縦巻物形式でお届けしていますが、文末にテキストの要約もありますので、慣れない方はそちらを参照ください。

[スライドの要約]

  • 「PR Driven」とは、広告予算が確保できないときに企む「認知獲得」アプローチ
  • なぜPRに注力する必要があるのか
    >中小企業発新規事業(特にBtoC)を成功させるためには、認知獲得が必要不可欠
    >しかし、必要な認知を獲得するだけの広告費は期待できない
    >そのため、メディアに取り上げてもらう努力をせざるを得ない
  • wemoの海外展開例
    >弊社から、海外デザイン系Webメディアに、wemoの製品情報(画像とテキスト)を投稿
    >フォロワー数100万規模の複数メディアに掲載される
    >その結果、メディア、法人、個人など20カ国から引き合いや問い合わせを受ける
    >その内容から、国内と同様の反応、ニーズを確認
    >ちゅうちょなく海外展開を意思決定することができた
    (2019年2月より海外展開スタート!)
  • PR Driven のポイント
    1. 他にはない特徴を設計
      プロダクトやサービスがユニークであることが大前提
    2. 企画段階で専門家や関係者に相談
      効果的な切り口を知り、デザインの要件に加える
    3. “ひと目”“ひと言”を準備
      印象に残り、分かりやすい画像とテキストを用意する

 今回はここまでです。次回は展示会の成果を振り返りつつ、wemoのターゲティングで企んだことについて、お伝えします!

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