中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。
前回は、よく質問を頂く、事業化検討の初期に実行した製品の「ピボット」についてお伝えしました。今回はその続きと、「wemo」に目盛りを入れることになった経緯や意図についてお伝えします。
【2017年4月6日 エキスパートへのヒアリング@コスモテック本社】
コスモテックがお世話になっている通称「公社」(公益財団法人東京都中小企業振興公社)より、看護現場に明るいエキスパートを紹介いただいた。
お越しいただいたのは、「一般財団法人在宅ケアもの・こと・思い研究所」専務理事の森田朝子さん。国内だけでなく途上国の医療現場経験もあるとのこと。
wemoの概要を説明したところ、確かにニーズはあるという森田さんのコメント。ただし、大学病院などの大規模医療施設では衛生面の管理が厳しいので、導入のハードルは高いのではないかとの指摘もあった。
もう一つ私が気になっていたのは、このような文具は法人(病院の備品として)、個人のどちらが購入するのかという点である。もちろん、この事業としては前者を狙いたい。この点について森田さんは、想像しやすいのは個人での購入とのこと。そのような個人の方がよく利用している看護師向け通販サイトを紹介してもらい、実際の画面を見ながら、どのような買い方をしているかも教えてもらう。
これだけでも十分に収穫があったのだが、最後に値千金のアイデアをもらうことができた。森田さん曰く、シリコンバンドには「目盛りを入れるべきだ」とのこと。看護師は常にポケットに忍ばせているグッズがいくつかあり、その一つがメジャーなのだという。傷口やチューブの挿入長を測るなど、さまざまな場面で活躍するらしい。
このアイデアに私はすぐに飛びついた。機能的な便利さだけでなく、現場向けのストーリーを語りやすいと思ったからである(詳細は後段「デザインの引き出し」参照)。
「なぜここに目盛りが入っているか、分かりますか?」
「このバンドは医療現場向けでして、看護師がポケットに必ず入れているメジャーの代わりにも使えます」
こんな内容をドヤ顔で説明する自分を想像できた。そして、私の説明を受けた相手も、私と同じように別の人に説明できるキャッチーさがあるように思えた。同席されたコスモテック社長、高見澤友伸さんもぜひ採用したいとのことであったので、製品に早速反映することになった。
【6月21日 大発見@kenmaオフィス】
コスモテックからバンドに貼るタイプのシールの試作最新版が届く。何度も試行錯誤を繰り返しているので、何バージョン目なのかもはや分からない。
早速貼って試してみると、書き心地はパーフェクト。また、バンドを巻いたり伸ばしたりしても、テープにたわみがなく、問題ない状態である。
「ちなみにやけど、これ、はみ出して書いてしまったらどうなんの?」
ふと気になって、メンバーに発した疑問が、さらにビッグアイデアを生むことになる。
「これ、消えるで!!!!」
試しにシールが貼られていない部分に油性ボールペンで書いてみたのだが、指で擦ると少し消えたのである。ここでさらにピンときたのは、コスモテックなら、完全に消せるコーティングを開発できるかもしれないということ。
いきなりの電話で大変迷惑だろうということは承知で、早速、高見澤さんに電話をしてみる。
「……確かにできるかもしれないですね」
私とはテンションにかなりギャップがあったが(笑)、何とか実現できる様子であった。もともとは、シールの「ハード」(前回参照)としてシリコンバンドに行き着いたが、偶然が重なり、シール不要のウエアラブルメモが誕生することになった。まさに絵に描いたようなセレンディピティー!
このタイミングで重大な決断を行った。2週間後に控える「国際 文具・紙製品展」に、この「バンドのみ」のウエアラブルメモも出展することにした。ブースデザインやそこで配布するリーフレットなどのコンテンツがフィックスしたばかりのタイミングだったので、この決断はメンバーに大きな負担を強いることになるが、致し方ない。コーティングは間に合わなかったとしても、既に準備しているバンドでコンセプトを伝えることができるので、文具に対する感度が高い方々にぶつける機会を逃がすわけにはいかないと思った。
【6月27日 知財相談@日高国際特許事務所】
「東京ビジネスデザインアワード」では、各領域のエキスパートである審査員の方々に無料で相談することができる。出展=公知(こうち)となるため、先に知財の出願等のケアが必要なのではないかと思い、無理を言って日高国際特許事務所にアポイントを取った。
特許なのか意匠なのか、そもそも模倣を防ぐことができるのか全く見当がつかない状態で相談に伺ったが、どうやらうまく出願することができるとのこと。相談に乗っていただいた弁理士の日高一樹さんは美術大学出身であることもあり、我々のデザインの意図もくみ取っていただけて、非常にありがたかった。
一番の懸念は展示会まで1週間しかない(!)ことであったが、こちらも何とかなるとのこと。出展までまだまだ問題は山積みではあるが、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
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