中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。

 前回は、東京ビジネスデザインアワード(TBDA)の最終審査会の準備から当日のプレゼンテーション、そして優秀賞を受賞したことを書きました。今回はよく質問を頂く、事業化検討の初期に実行した製品の「ピボット」の模様を2回に分けてお伝えします。

【2017年2月7日 祝賀会@吉祥寺】

 TBDA最終審査会で何とか優秀賞に滑り込むことができ、祝賀会を開いていただいた。とてもよい機会なので、コスモテック社長、高見澤友伸さんに改めてこの事業に対する思いを伺う。

 これまで数多くのプロジェクトに携わってきたが、この内容だけは絶対に当人の口から聞くのがいい。とにかく成果を重要視するプロジェクトもあれば、メディアへの露出や、新たな挑戦への意思を社内に示すなど、成果以外に意義を見いだしている場合もある。

 「たとえ面白いと評価されても、売れなければ意味がないですね」

 高見澤さんの回答は明確であった。単に収益を上げたいということではなく、「顧客のニーズに応える」ことを徹底してきたから今があるということを、コスモテックの歴史と共に伺えた。

 我々のほうからも思いを伝える。僭越(せんえつ)ながらコスモテックの新たなフラッグシップ製品を実現したいと思っていること、事業の成果を生むためにデザインしたいと思っていることなどを伝えた。互いの思いにズレはなさそうで、相性の良さを改めて実感することができた。

 お酒の勢いで、もう一つ聞きたかったことを伺うことができた。それは、hadamemo以外のアイデアも考えてもよいかということ。これに対しては「全く問題ない」と即答であった。この時点で特にアイデアがあったわけではないが、事業をスケールさせるためにはシールだけでは難しいという肌感があった。

【2月8日スタディ(1)@kenmaオフィス】

 祝賀会から一夜明けて、早速、hadamemoの事業展開について考える。教科書的には、事業計画書の目次から考えて次に中身という順番で検討していくのかもしれないが、kenmaのプロジェクトでは基本的にはこうしたやり方はしない。

 その代わりに徹底するのが、事業が軌道に乗ったときの状況や、製品が売れているシーンを想像することである。この想像したシーンがクリアであればあるほど、必要な打ち手を明確にできる。想像を徹底するのには、もう一つ理由がある。「机上の空論」という言葉があるが、机上ですら成り立たない事業が成立するわけがないと信じているからだ。いかに高解像度で想像できるかが、事業を計画するうえでの鍵だと思っている。

 まずは、数字の想像から始めることにした。とりあえず年間1億円の事業にするとして、シール1枚10円で販売、小売価格の50%で卸すとする。その場合、10枚1セットとして年間200万個、月間で約18万個売らなければならない計算となる。国内人口の1%が120万人なので、複数個購入するユーザーがいるとしても200万個はやはり大きな数だ。

 その場合の売り場はどこか? Amazonだけでは到底及ばないのではないか。量販店は、文房具であれば東急ハンズやロフトが思い浮かぶ。しかし、無名の文具を取り扱ってもらうためには、乗り越えるべきハードルが高そうだ。そう考えると、大量発注が望める法人向けのほうがよいのか?そんなことを、さまざまな視点から想像する。

 1つ気がかりなのは、シールの価格面だ。1枚10円で販売するには想定をはるかに超える枚数を製造しなければならないとコスモテックから説明を受けており、現実的ではない。近い製品としてすぐに思い浮かぶのは、文具の中でもデザインが売りの付箋だ。早速ネットで検索してみると、1セット500円程度で販売されている。1枚数十円という計算になるが、自分が買うかといえば恐らく買わない。

 ECサイトでの販売を考えると、送料のことも気になり始める。製品価格に対して送料が相対的に高くなってしまう。「1000円以上で販売できる方法はないか?」。ノートにメモしながら、また別の想像を始める。

 やはりこの製品の事業化は、ハードルが高いと痛感する。まあ、それこそ初めから想像できたことであり、ひとえに私の想像力が足りないのだ(笑)。

【2月9日 スタディ(2)@ビッグサイトカフェ】

 本日は別のクライアントがギフトショーに出展していたため、その様子の視察にビッグサイトに。その後カフェに立ち寄り、昨日の続きを行う。と言っても、昨日はかなりネガティブなまま終えたので、気分を変えるためにも、シール以外のアイデアを模索してみる。

 手始めに考えたのは「そもそもウエアラブルメモとは?」という問い。ウエアラブルメモのさまざまな利用シーンを検討しながら、それを単純化していく。最終的には、「書く」「見る」「身に着ける」の3つの役割があること。そして、その順序にパターンがあることに気づく。

 今まで想定していたのは、「手に貼る→書く→見る」のパターン。それ以外に、「先に書く→貼る→見る」といった「リマインダー」パターン。例えば、todoリストや作業手順などが想定される。

 他には、「貼る→書く→剥がす→見る」といった「保管」パターンがある。例えば、前回登場した渇望者のように、カルテに転記するシーンが想定できる。

 現状のhadamemoが、剥がしてまた貼れればいいなと思いつつ、剥がすとすぐに丸まってしまうことが頭をよぎる。

図1:hadamemoの利用パターン (C)kenma Inc.
図1:hadamemoの利用パターン (C)kenma Inc.
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