中小企業がデザイナーと組んで開発したヒット商品、ウエアラブルメモ「wemo」。腕に巻いて使用するシリコンバンド型のメモが、マーケティング予算が限られているにもかかわらず、発売以来1年間で10万本の受注を獲得。海外でも販売が決まった。現在進行形のプロジェクトの全貌を追う。

 前回は本連載の見どころと抱負をお伝えしました。今回から本格的に始まりますので、ぜひ最後までお楽しみください。

【2016年9月5日@東京ミッドタウン】

 「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)」のデザイナー向け提案応募説明会に参加。都内ものづくり企業11社によるプレゼンテーションを聞く。やはり経営者からの説明を直接聞くと、応募テーマのイメージが具体的につかめる。ご一緒したいと思う経営者の方も数人いて、後に「wemo」を共同で開発することになった機能性フィルムメーカー、コスモテックの高見澤友伸社長もそのお一人だった。ただし、応募テーマの「水なしで肌に貼れる特殊転写シール技術(図1)」については、全くピンと来なかった。

図1:コスモテックのテーマ。デザイナーは各企業の応募テーマの「技術」や「素材」の新たな用途や可能性を見いだして、ビジネスデザイン案を応募する。(C)公益財団法人日本デザイン振興会
図1:コスモテックのテーマ。デザイナーは各企業の応募テーマの「技術」や「素材」の新たな用途や可能性を見いだして、ビジネスデザイン案を応募する。(C)公益財団法人日本デザイン振興会

【2016年9月5日@某都内カフェ】

 応募説明会の内容を踏まえ、我が社のメンバー全員(共同経営者/デザイナーの林、デザイナーの木村)がそれぞれ検討したい応募テーマを挙げ、ディスカッション。特殊転写シールについても議論し、図1のようなキャラクターコンテンツやファッション系は筋が悪そうだといったことを話し合う。最終的には「ファッションではなくファンクション(機能)」の方向性で考えてみることにし、何か思いつけばアイデアをシェアすることにした。ちなみに、本命のテーマは別にあり、そちらは全員必ずアイデアを出すと決めた。

【2016年10月3日@オフィス】

 提出期限まで1カ月を切り、応募案を固めるためのミーティング。メンバー間ではすでにオンラインでアイデアをやりとりしていたため、ここでは可能性がありそうな案に絞り込んでいく。特に議論したのは、各企業の新たな看板商品「フラッグシップ(後述の『ビジネスデザインの引き出し』参照)」となり得るかどうか。その企業固有の特徴を象徴するような製品/サービスのアイデアが理想。2時間弱の議論を経て、案がほぼ固まってきたところで、雑談モードに。そのとき……、

 「これ(コスモテックのタトゥーシール)、書けたらオモロないですか?」

 「せやなー」(そんなもん誰が使うねん…)

木村 「そういえば、よく看護師さんが手に書いてますよねー」

 (え、そうなん…?)

 といった会話が起こる。

 出てきたアイデアはすぐに検証することにしているので(というより短気なだけ)、説明会でもらったサンプルに実際に文字を書いてみることにした(図2)。

図2:フィルムに文字を書けるかどうか、試したときの画像。「書けなくはない」というレベル (C)kenma Inc.
図2:フィルムに文字を書けるかどうか、試したときの画像。「書けなくはない」というレベル (C)kenma Inc.

 書けなければ、即ボツにしようと思っていたが、書けなくはないことが分かる。それよりも、看護師さんの手メモ(手にメモする)のほうが気になる。もし、そういったことが現場で発生しているのであれば、解決に値する“未充足ニーズ”だと思ったのだ。理学療法士の弟が病院に勤務している(そしていつも電話に出てくれる)ことから、その場で電話をして確認してみる。

 結果は、「たまにいる」「そこまでレアじゃない」「そういえば同期にもいる(次回登場予定!)」とのこと。「書ける」、そして「そういうニーズがある(ありそう)」。この時間わずか20分程度。なかなかの好タイムで、これぞラピッドプロトタイピング!

 また、一つの判断基準である、新たな看板商品「フラッグシップ」になり得るのではないかとも思った。特殊転写シールの特徴を生かし、同時に、生活に役立つこれまでにない新たな製品ができる予感がしたからである。結局、このアイデアを詰めていき、「hadamemo」というコンセプトにまとめ、TBDAに応募することになった。

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