MaaSは観光立国に必須の要素となる

東日本旅客鉄道(JR東日本)、ジェイアール東日本企画、東京急行電鉄は、19年春に静岡県・伊豆エリアで「観光型MaaS」の実証実験を計画している(参考記事「<a href="/atcl/contents/watch/00013/00120/" target="_blank">観光型MaaS 東急×JR東日本×楽天のタッグで実証実験へ</a>」)
東日本旅客鉄道(JR東日本)、ジェイアール東日本企画、東京急行電鉄は、19年春に静岡県・伊豆エリアで「観光型MaaS」の実証実験を計画している(参考記事「観光型MaaS 東急×JR東日本×楽天のタッグで実証実験へ」)

 製造業が以前のように雇用を生まなくなった今、地域にとって期待が持てる成長産業は観光しかない。これといった観光資源がないエリアでは、観光振興は見果てぬ夢と思うかもしれない。しかし、観光庁が実施している「訪日外国人消費動向調査」からは、違う現実が見えてくる。外国人は、必ずしも名所旧跡などの、いわゆる観光地を求めているわけではない。

 観光庁が発表した「訪日外国人消費動向調査(2017)」の中で、「今回したことと次回したいこと」という項目を見ると、「日本食を食べること」は「今回したこと」としてほぼ100%の外国人が挙げているが、「次回したいこと」になるとおよそ半数になる。つまり、日本食を食べることは、一度体験すれば十分と考える人が多いのである。「日本の酒を飲むこと」「繁華街の街歩き」「ショッピング」「自然・景勝地観光」も同じ傾向だ。

 逆に「今回したこと」より「次回したいこと」のほうが大幅に増えているものは、「スキー・スノーボード」「自然体験ツアー・農山漁村体験」「四季の体感」「映画・アニメ縁の地を探訪」「舞台鑑賞」「その他スポーツ」などである。一通りの日本観光を体験した外国人は、次はより日常的なもの、日本の原風景につながる根源的な体験を求めていることが分かる。

出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査(2017)」
出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査(2017)」

 すなわち訪日外国人のリピーターを増やすには、日本人が日常的に楽しんでいることや日本の原風景たる農山漁村にうまく人を呼び込むことが必要になる、ということだ。事実、ドイツ、イタリア、英国など、日本と同規模以下の国土で、これから日本が目指す4000万人規模の外国人観光客を呼べている国は、農山漁村でのんびりと滞在するグリーンツーリズムやルーラルツーリズムが盛ん。都市や名所旧跡を巡るのとはまた別の過ごし方があることが、リピーターの獲得につながっている。

 その時にネックになるのが、交通である。同じく観光庁の「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート(2017)」によれば、「滞在中に困ったこと」として、2割程度が「公共交通の利用」を挙げている。交通手段ごとに見ると、「新幹線以外の鉄道」「バス」については、「乗車方法が分かりにくい」という指摘が多く、「タクシー」については「価格が高い」という不満が突出している。東京から富士山を巡り、京都、大阪に至る日本観光のゴールデンルートに旅行客が集中している現状においても、この結果である。今後、もっと多様な日本を体験してもらおうと思えば、交通に対する不満が高まることは必至だろう。

 交通手段を増やすと共に、路線検索から決済までをスマホアプリによってワンストップでできるようにするMaaSは、今以上に外国人を受け入れるための必須のインフラとなるだろう。地方においてはマイカーを使った配車サービスを本格的に解禁するなどして交通手段を増やすことが前提になるが、交通をスマートに使いこなせるようにするMaaSは、観光立国を実現するために不可欠な要素となるのである。

 以上見てきたように、MaaSは、外出促進を通じて地域を潤し、域外への資金流出を減らして地域に富をとどめ、観光客を呼び込むことを通じて外貨の獲得に貢献する。MaaSが地方創生の切り札として期待できるゆえんである。

 特集の最終回となる次回は、「国家戦略としてのMaaS」について、考えていきたい。

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