MaaSは地域内のお金の循環を促す

 米ウーバーテクノロジーズに代表される配車サービスやカーシェアリング、自転車シェアリングなどのような新しいモビリティサービスと公共交通の組み合わせで、マイカーと同等以上の移動の自由と利便性を提供するのがMaaSである。前回紹介したようにヘルシンキの経験では、MaaSの導入はマイカーの利用を半減させ、公共交通やそれ以外の交通サービスの利用を増やす作用がある。このマイカーから公共交通を含むモビリティサービスへのシフトは、少なからぬ経済効果を地域にもたらす。マイカーをやめ、サービスに移行することで、地域にお金が巡るようになるのだ。

ウーバーは自転車やスクーター、公共機関などを組み合わせたドア・ツー・ドアサービスを志向している(写真:Shutterstock)
ウーバーは自転車やスクーター、公共機関などを組み合わせたドア・ツー・ドアサービスを志向している(写真:Shutterstock)

 それは、なぜか。ほとんどの地域にとってマイカーは地域外から“輸入”するもので、ガソリンも“輸入品”だからだ。つまり、マイカーの所有・利用には“外貨”を必要とする。マイカーを運転すればするほど資金は地域外に流出していくのである。むろん、自動車ディーラーやガソリンスタンド、整備工場などは潤うし、自治体にも軽自動車税などの税収が入るが、クルマの付加価値の源泉は車体自体にあるから、その経済効果は限定的である。クルマの製造を手掛ける地域でない限り、マイカーがもたらす富はそう多くはない。

 それに対し、MaaSに使われるお金は地域内を巡る。公共交通にせよ配車サービスにせよ、そのオペレーションを担うのが地域の会社なら、大半のお金は地域の中で回り続ける。自動車ディーラーの売り上げは減り、軽自動車税・自動車税がもたらす自治体の税収も減るかもしれない。しかし、右肩下がりだった公共交通事業者の売り上げはV字回復し、配車サービス提供会社や、そこでドライバーとして働く者は潤う。すなわち、MaaSによる所有から利用へのシフトは、資金の域外流出を減らし、地域の中でお金を循環させるように働くのだ。

 自動車産業も他の産業と同じく、川中の製造より、川上の部品・素材や川下のサービスの生み出す付加価値のほうが大きくなることが予想されている。であるならば、付加価値の源泉であるモビリティサービス領域を地域の中に取り込んでいくことが、地域を豊かにするための戦略となる。

 ドイツやオーストリアでは、シュタットベルケと呼ばれる公営企業が、エネルギーの発電・小売事業と公共交通の運営を手掛けていることが多い。エネルギーサービスとモビリティサービスの両方を地域が担うことで、資金の域外流出を最小限に抑えているのだ。ドイツやオーストリアで、人口20万人以下の小都市が元気な理由は、このエネルギーとモビリティの自治にある。

 MaaSは、極度のマイカー依存社会から脱却することを通じて、モビリティの自治を実現する。これこそが、地域内の富を増やし、豊かな地域を創るのである。