MaaSという考え方が生まれた背景とは?

 まずMaaSを正しく定義付けることから始めよう。MaaSとは、マイカーという魅力的な移動手段と同等か、それ以上に魅力的なモビリティサービスを提供し、持続可能な社会を構築していこうという全く新しい価値観やライフスタイルを創出していく概念のことだ。鉄道、バス、タクシー、レンタカーといった従来の交通サービスや、カーシェアリング、自転車シェアリング、配車サービスなどの新しい交通サービスをすべて統合し、1つのスマートフォンのアプリを通じてルート検索、予約、決済機能にオンデマンドでアクセスできるようにする。MaaSアプリの利用者は、移動のニーズに応じて最適な交通サービスの組み合わせを選択し、ドア・ツー・ドアでシームレスに、かつリーズナブルに移動できるようになる。

MaaSのイメージ。従来、各モビリティサービスに個別にアクセスしていたものが、MaaSアプリで一括して予約、決済できるようになる。『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』より
MaaSのイメージ。従来、各モビリティサービスに個別にアクセスしていたものが、MaaSアプリで一括して予約、決済できるようになる。『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』より

『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』

 もともと「サービスとしてのモビリティ(MaaS)」という考え方は、マイカーに対する概念だ。マイカーは時間と場所を選ばず、プライベートな空間でどこにでも移動できる良さがある半面、交通渋滞や事故を引き起こし、乗っていない時間は駐車場に置き去りで、貴重な土地をムダに占有するという厄介な面も持っている。大人数を運ぶのには向いていないし、環境負荷も高い。旅客における単位輸送量当たりのCO2排出量は鉄道の7倍、バスの2倍以上である(国土交通省の試算)。人口密度の高い都市の交通の手段として見たときに、マイカーは圧倒的に分が悪い。

 だから欧州やカナダ、米国の一部の都市では、モータリゼーションが急激に進んだ70年代から、マイカーをやめて鉄道などの公共交通に回帰しようという動きが生まれた。中心市街地からマイカーを締め出し、廃止していた路面電車を現代的なLRT(低床型トラム)として復活させ、バスや鉄道とネットワークすることで使い勝手を高め、人と環境に優しい交通網を作り上げる都市が出てきたのである。

 それらの都市では、中心市街地に人が戻り、街がにぎわいを取り戻した。そこで90年代になるとLRTを中心とするまちづくりが世界的に注目され、公共交通への回帰が喧伝されるようになったが、まちづくりと交通政策を一体的に推し進めることのできる強力なリーダーシップを持つ自治体以外、進めることができなかった。だから、20世紀の間は、大多数の都市ではマイカー依存から抜け出すことはできなかったのである。

 しかし、21世紀になって状況が変わった。インターネットとモバイル機器の普及により、まず、カーシェアリングや自転車シェアリングのような新しいモビリティサービスが登場した。スマホの普及後は、アプリを使ってオンデマンドでクルマを呼べる配車サービスが登場した。とりわけライドシェアと呼ばれるマイカーを使った配車サービスは、いつでも好きなときに呼べて、ドア・ツー・ドアで好きなところに行ける。タクシーよりずっとリーズナブルで、アプリ上で決済もできてしまうという便利さから、世界中で瞬く間に広がった。