消費財のヒット商品が生まれにくい時代といわれて久しい。そのなかでひときわ輝く存在が、キリンビールから湖池屋社長へと異例の転身を遂げた伝説のマーケター、佐藤章氏だ。佐藤氏の笑顔はヒットを出すのが難しいという苦悩はみじんも感じさせない。

2016年の湖池屋社長就任後、ポテトチップスの常識を覆す「KOIKEYA PRIDE POTATO」で見事なヒットを放つとともに、新生湖池屋の名を消費者の心に印象づけた。そんな佐藤氏が誇る、20年以降の日本においてヒットを飛ばす商品開発の極意とは……。
16年に、当時の「フレンテ」に転身して、最初に手がけたことは会社名とロゴの変更でした。
お客さんの立場から見ても、湖池屋のほうがわかりやすいし老舗を印象づけられるんじゃないかと。僕は湖池屋というロングセラーを「鮮度アップ」させることが一番面白いイノベーションだと思ったわけです。それでブランドロゴを作り直し、名刺や紙袋に至るまですべて変えて、現代風にリブランディングしました。そして出したのが、プレミアムポテトチップスの「KOIKEYA PRIDE POTATO」です。
縦型のスタイリッシュなパッケージが印象的で、17年の菓子業界を代表するヒットとなりました。
新しい湖池屋の顔をつくれたということはうれしいですね。これ以降もさらに挑戦は続けています。例えば「ワンハンドポテチ」。スリムな縦型の袋で手を汚さずにスナックを食べられるという発想で「ゲーマーズスナック」なんて呼ばれています。分厚いジャガイモで作ったポテトチップスの「じゃがいも心地」は、PRIDE POTATEとは違う、お煎餅を食べていた層に受けて、好調に売れています。
極め付きは、東京都美術館で開催中の「ムンク展」とコラボした、ムンクの「叫び」をイメージしたカラムーチョ。誰がカラムーチョが世界的名画に関わると思っていましたか(笑)。それ以外にも、PRIDE POTATOではB,zや読売ジャイアンツ、世界遺産の宗像大社と、意外なコラボをやってきました。ロングセラーこそ、最も“遠いもの”とつなげることでイノベーションが起きるんです。
でも変えていないことがあります。それは創業者のものづくりの姿勢。日本産の食材を使い、天ぷらを揚げるように繊細にジャガイモを揚げてポテトチップスを作っていた。このアーティシズムはずっと継承しなくてはならない。
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