NTTセキュアプラットフォーム研究所でチーフ・セキュリティ・サイエンティストを務める高橋克巳氏。高橋氏とクロサカタツヤが「個人起点のデータビジネスの商機」を探る対談の前編では、理解が難しいデータ活用とプライバシーの関係について「相場観」をキーワードに議論を深めていく。
- 一般企業による自社で取得したデータだけの分析、GAFAによる会社や組織をまたぐデータ分析と、個人情報の活用のされ方が2極化している
- 企業をまたいだデータ活用が難しい要因は、「信頼関係」「利用目的」「法律に適合」の3点
- プライバシーには「相場観」がある。つまり、相対的な価値が比較的状況依存で変動していくことはあまり認識されていない
高橋:個人のデータ流通という観点から、まず私からお話ししたいことがあります。
企業が自社のサービスで個人情報を取得し、それを自社のサービスや事業を改善するために役立てることには、多くの実例があります。では、それを1つの企業だけではなく、複数の会社や組織が持つ個人情報を集めて分析することができるのか。
例えば、ある人が店Aと店Bを続けて訪れたとします。それぞれのお店は、自店に来客されたお客様の記録は持っていますが、他店のことは分からない。でも、その両方の記録を突合すれば、ある個人の動線が分かり、新たな価値が生まれます。
そうした会社や組織をまたぐデータ分析が、今の時点で存在しないかといえば決してそんなことはなく、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)は自社で収集したデータを活用して、広い意味でそういうことを実現している。一方で、普通の企業は通常、自社で取得した個人のデータしか見ていないし、その先のデータを見るためにはさまざまな制約があります。
いわば個人情報の活用のされ方が2極化しているわけです。さまざまな企業の中にとどまっている個人情報を、企業間をまたいでうまく使えるようになればいいと思っているのですが、なかなか簡単にはいかない。
クロサカ:確かにその通りです。その要因は、何だと考えていますか。
サービス最適化を超えた「正当な目的」とは
高橋:3つのファクターがあると思っています。まず、プライバシーポリシーに記載されているような、個人情報を集める企業と個人の間の「信頼関係」。そして、その個人情報が何のために使われるのかという「利用目的」。あとは前者2つも含みますが、「法律に適合」しているか。この3つのバランスがうまく釣り合っていることが重要です。
この中でまずは、「利用目的」にフォーカスしてみましょう。これまで、企業が個人情報を取得する際の利用目的としては、サービスを提供するために必要最小限なものを定義するのがよいとされてきました。でも、それって「必要最小限」なので、ミクロにサービスだけが良くなることにしかつながらない。
それももちろん大事なのですが、サービスが良くなって地域が良くなるとか、あるいはサービスにつながるエコシステム全体が良くなって全体で使い良くなる、ビジネスが活性化して元気が出てユーザーも楽しくなるとか、いろいろな副次効果もあると思うんですね。サービスそのものだけでなく、そうした副次効果を及ぶエコシステム全体も含めた「正当な目的」の範囲があるんじゃないかと思っています。
クロサカ:私も基本的に同じ考えを持っています。そもそも、我々個人、消費者は、特定の事業者と1対1で向き合って生きているわけではなくて、あまり普段意識しないことも含めてさまざまな事業者、さまざまなサービスと日々接触しながら生きているわけです。
その「自分の世界」を最適化しているのは自分自身という個人です。なので、個人を起点にして、その人が寄って立つエコシステムであるとか、コミュニティーを最適化するということが目的として掲げられていいのではないかと、理念的には思います。
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