パルコでグループICT戦略室を担当する林直孝氏とクロサカタツヤによる対談の後編。林氏はPARCOのオムニチャネル化、データ収集を進める中で、お客さまの店舗滞在中の行動が分からないことに気がついた。お客さまの店内行動データを集める上では、ルールに則した「通知と同意」以上に重要なことがある。
クロサカ:お客さまがPARCOに来館するまでは、少しずつ見えるようになった。でもそれによって、店舗での滞在中、つまり店内での様子が見えていないことに気づかれた、ということですね。
林:そうなんです。なので、店舗内でお客さまがどんな行動を取られているのかを理解するために、次はIoTを使おうということになった。その1つがカメラだったり、店舗内Wi-Fiのご利用履歴だったりと試行錯誤しながらやっています。
クロサカ:ユーザーエクスペリエンスがデジタルをベースにしたものに移行して、画面をタップすることで買い物行動に至ることが普通になってきました。だからこそ、お客さまは潜在的に実空間の中で自分の行動をデジタル化した上で、新しい提案をしてほしいと思っていることに、林さんが気付いたから、「お店の中のことこそ分からない」と思い至ったのではないでしょうか。IoTに取り組まれ始めたのはいつ頃からなのでしょうか。
ロボットでインフォメーションカウンターの接客を補う
林:2015~16年からですね。その1つに、店舗内でのロボットの活用があります。16年7月にオープンした仙台の「PARCO2」で、2台のロボットによるご案内サービスを1カ月間実施しました。
その時に取得したログでは、2台合わせて延べ1万1000件、1日当たり400件程度のご案内をしていました。一方で同じビル内の有人のインフォメーションカウンターでは、担当者2人が1日当たり130件程度の接客をしています。この実験から、ほとんどがトイレの場所など簡単な質問ですが、有人のインフォメーションカウンターと比べて問いかけをされる件数が多いことが分かりました。また、ロボットは営業時間中に休みなく稼働できますので、人の代わりになるというよりは、人が行うご案内では限りがある部分を、ロボットがフォローするのがいいと分かりました。ただし、まだ実証実験を繰り返している段階で本格的な導入には少し時間がかかるため、店舗内のご案内サービスを何らかの手段でフォローできないかと考えました。
Alexaの発話ログでデータに基づく店舗設計を実現
クロサカ:それで今はスマートスピーカーの運用を開始されていますね。
林:18年春から、スマートスピーカーによるご案内サービスをスタートしています。現在、池袋PARCOと名古屋PARCOの一部フロアに設置しています。音声だけだとお客さまに伝わりにくいこともあるので、スマートスピーカーとタブレットを組み合わせています。
クロサカ:この端末はどんなことをログ化できるのですか?
林:それぞれの端末が、どのようなご案内を何度しているかという発話のログですね。
例えば、名古屋PARCOのレストランフロアに設置しているスマートスピーカーが一番ご案内している内容はトイレの場所。一方で、池袋PARCOの1階入り口に設置しているスマートスピーカーは、ATMの場所を一番多く聞かれているようです。
つまり、場所ごとにお客さまが聞きたいことのニーズは異なるということが分かります。この結果から、従来は勘と経験でやってきたフロアごとのサイン表示やショップの配置換えなどが、ログ化されたデータに基づいて行えるようになります。
現在は、トイレの場所やお探しのショップが何階にありますというレベルですが、先々、商品や在庫の情報をテナントのPOSと連携できれば、お客さまがお探しの商品を取り扱うショップをご提案するなど、一歩踏み込んだご案内をすることもできるかもしれない。
例えば、お客さまが「こんなものを探しているんだけど」とスマートスピーカーに聞いていただくと、「こういうものが、このフロアの、このショップにあります」と答える。タブレットに商品情報とそれを今買えるお店の位置を表示するようなことです。Webの世界では当たり前かもしれませんが、実店舗で実装することでPARCOでのお客さまの買い物体験がより良くなっていくだろうと思っています。
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