GAFA同様の「両面市場」を実現

クロサカ:6年前の13年の日本でそこに気付いていた方は、あまりいないのではないでしょうか。というのは、「24時間PARCO」のコンセプトイメージを拝見して思ったのですが、最近でいえばGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)のような、デジタルの世界のプラットフォーム事業者たちの基本的なビジネスモデルの構造である「両面市場」と極めて似ています。片方ではサービスプロバイダーを抱え、もう片方ではエンドユーザーを抱えて、この2つの結節点を握れた者がプラットフォームの勝者になり、そのための競争をしているのだということが経済学的に分析されています。

 最近ようやくスコット・ギャロウェイの『the four』のような解説書が出て、プラットフォームの構造について一般の関心が高まるようになりましたが、林さんはそれに6年前に気付かれていた。何かきっかけがあったのでしょうか。

林:12年ごろ、いくつかの店舗で「ショップブログ」という、テナントのスタッフが自由に情報発信できるプラットフォームを提供していました。ブログを見て商品を買いに来られるお客さまや、スタッフと交流して欲しいものがあれば「あなたから買いたいから」と現金書留で注文してくださる地方のお客さまが出てきていました。

 そういうことがあったので、「テナントからどんどん情報発信するプラットフォームを我々が用意して、テナントと一緒に作っていけば、ブログでの接客が成立して、結果としてテナントの売り上げが増えてお客さまもうれしい」という構図が作れるという仮説は持っていたんです。

クロサカ:実際にWebでコミュニケーションを始めたら、単なる会話ではなく来店や購入といったアクション、さらにはスタッフ個人に対する好意といったエモーションにまでつながったという体験が既にあったわけですね。

全国のPARCO店舗がSNSを4アカウント運用

林:そうです。また、12年には、既にお客さまにはスマートフォンが普及していて、しかもどんどん伸びていくことが予想できました。なので、店頭というリアルのプラットフォームだけでなく、スマホの中に最初のきっかけを作ろうと考えました。それで、13年に自社メディアとして全国のPARCO店舗のWebサイトに、各テナントがブログによる情報発信ができる仕組みを導入。また、店舗ごとにTwitter、Facebook、LINE、Google+の4つのSNSアカウントの運用を開始しました。その後、Instagramの運用も開始しております。

クロサカ:パルコとしてSNSを運用するのではなく、全国のPARCO店舗それぞれが4アカウントの運用ですか。それはすごい。

林:Webでのお客さまとの接点を考えたときに、パルコのホームページだけではなく、お客さまが使っていらっしゃるSNSの中に接点を持つべきだということでやりました。

クロサカ:いきなり「パルコです」とメディアを打ち立ててもアクセスする人はそれほどいない、ということをスタート時に見極めていらっしゃったのは慧眼(けいがん)です。オムニチャネルは日本全体で見ると死屍(しし)累々ですが、それは多くの方がそこを間違えたからだと思っています。

 Webサイトを立ち上げただけでは、消費者には見に行く理由がない。それぞれのお店、さらにその先にいるスタッフに会いたいのだから、そのインターフェースを顧客の近くに作るというのは、シンプルかつ重要なアプローチだと思います。

ブログを見て買う人がいたから誕生した「カエルパルコ」

林:店舗のWebサイトをブログ主体に切り替えて、次に行ったのが(ECサイトの)「カエルパルコ(現:PARCO ONLINE STORE)」です。切り替え後の13年10月に調査したところ、当初の仮説通り、ブログが来店のきっかけになることや、電話での問い合わせや取り置き、通販の依頼が増えていました。ということは、「ブログで見たときに注文できる」機能が足りていないということがその時点で分かったんですね。なので、ブログにシンプルにカートボタンが付いていれば、そのまま買いたい人は注文できる。買う前に実物を見たり試着したりしたいお客さまは、店頭で取り置きもできるというプラットフォームに進化させました。それが14年です。

 その次がパルコの公式スマホアプリ「POCKET PARCO」です。14年11月の福岡PARCO新館オープンに合わせてリリース、テストマーケティングとして福岡PARCOだけで、アプリのさまざまな機能や特典を使えるようにしました。

 その結果、アプリのユーザーには「アプリでブログをチェックして、店舗に来店(チェックイン)して、買い物をする」という動線ができ、アプリのユーザーと非ユーザーではLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の差が大きく開いてきたことが、わずか2カ月で明確になりました。これはすごく効果があるということで、15年3月には全国のPARCOで同じ機能の展開を始めました。