家庭で発電した電力のP2P取引市場実現を目指すTRENDE(東京・千代田)代表取締役の妹尾賢俊氏は、市場から得られる電力消費データは「消費行動データよりも高いかもしれない」と語る。どんな「個人起点のデータビジネス」が生まれるのか、クロサカタツヤとの対談の後編。

妹尾賢俊(せのお・ただとし)氏
1973年生まれ、TRENDE代表取締役。一橋大学卒業後、東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行、10年の勤務後に日本発のソーシャル・レンディング・サービスのmaneo、ブロックチェーン開発企業のOrbとフィンテックベンチャーを立ち上げてきた。2017年8月より現職

クロサカ:電力の地産地消をする人たちをバックアップするというのが、先ほどおっしゃっていた「うちがバックオフィスをやります」という話ですよね。

妹尾:その通りです。自治体や地域住民などで、「自分がこの地域の電力供給の主体者になってもいい」と手を挙げてくれる人を、私たちがバックアップする。システムは用意するので、顧客獲得はやっていただいて、上がった粗利を折半しましょうと。

 やはり、地域のことは地域の人にやってもらうのがいいんです。特にインフラは、サービスを受ける側も安心するじゃないですか。大きな電力会社から見るとお客様はメーターだけど、電気を使っているのは人間。だったら、近くにいる主体が、電気を使っている人と向き合ってサービスを提供できる方がいいので、そこを全力でバックアップしたい。

 もちろん下心はあって、そのシステムをP2P電力取引システムに乗せ、コモディティーである電気から得られる収益はコミュニティー側に寄せて、我々はデータをいただいて、マネタイズする。そうすれば電気料金自体も下がるし、産業競争力が生まれて、全体としてハッピーになるんじゃないかなって思うんですよね。

誰のためのデータ流通か

クロサカ:「コミュニティーのデータをマネタイズする」というお話がありました。P2Pの電力システム上で得られるデータの取り扱いについて、どのようにお考えでしょうか。

妹尾:できれば電気料金を原価まで下げるために、収集したデータをマネタイズさせてもらいたい。でも、それをどう使うかまではまだ考えていないんです。

 いただくデータというのは、世帯の電気の消費量データ、家にある家電の稼働状況など、本当に生活に密着したデータです。宅内であれば家でどんな生活をしているかが分かるし、P2Pの電力取引においてはモビリティーもデバイスの1つなので、「どこに行って何をしたから電気がこのくらい減った」というようなことまで分かる。本当に生活の全てがデータ化されるので、もしかするとそのバリューは消費行動データよりも高いかもしれない。

 それをできる限り、データを提供したお客様のために役立つ形でマネタイズしたいんです。単にデータを外部に売って収入を得るのではなくて、例えば健康産業に携わっている企業が、データに基づいて食事や運動についてリコメンドしてくれるようなサービスです。これならば、うちにとっては広告商品でも、お客様にとっては生活サポートになる。そういう使い方ができるようなデータ提供の仕方をしたいんですよね。

クロサカ:健康サポートとかヘルスケアが、まず「お客様のためになる」という視点を持たれていることに感嘆しました。実は、今のデータビジネスのプレーヤーで、ここにダイレクトにたどり着ける人はほとんどいません。だから消費者から「広告だ」と嫌がられてしまう。

妹尾:お客様のニーズを予想して、「こういうサービスが提供できる会社があればいい」ということをこちらで判断し、そこに対して「こんな広告をこういうお客様に出しませんか」と提案して、お客様もその会社も我々も喜ぶ形でやりたいんですよ。そのためにはデータの量と分析精度が必要になるんですが、チャレンジしがいはあると思っています。

クロサカ:そこは、妹尾さんの取り組んでいらっしゃるビジネスの枠内で内製化するのか、あるいは、外部パートナーとコラボレーションの可能性はあるのでしょうか。

妹尾:餅は餅屋で、マーケティングプラットフォームをうちがゼロから内製するのはやっぱり難しいです。だから、生活に関する情報は手に入るので、うちと一緒に、お客様に広告という形でサービスを提供して収益を折半しましょうというのは、条件が合えば全然ありです。我々だけでやるより、一緒にやりましょうと言っていただいて輪が広がる方がいいです。

 なぜかというと、うちのノウハウとパートナーのノウハウが一緒になれば、こちらにも向こうにも新たなノウハウがたまる。そうすると、私たちと直接、相対していないところにも、パートナーを介してノウハウが広がりますよね。

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