米ファスト・カンパニー

中国発の越境ECアプリは、今はやりの「ショッパーテインメント(娯楽性にあふれた買い物)」と中国などの工場から直接届く格安商品の“洪水”を武器に米国市場に殴り込み。連邦や州政府による対中国政策が厳しくなろうとしているにもかかわらず、その地位を確立しようとしている。

中国発の越境ECアプリで米国でも人気を博しつつある「Temu」(出所/Shutterstock)
中国発の越境ECアプリで米国でも人気を博しつつある「Temu」(出所/Shutterstock)

 中国発のショッピングアプリ「Temu(ティームー)」が、米国で広く“自己紹介”しようとしている。

 途方に暮れるほど幅広い商品カテゴリーをそろえ、かつ「低価格であること」に非常に大きな重点を置くTemuが米国で立ち上げられてから、まだ半年もたっていない。だが、積極的なオンラインマーケティングのおかげで、2022年12月までに米アップルの「アップストア」と米グーグルの「グーグルプレイ」の双方で、最もダウンロード数の多い無料アプリの一角に食い込み、23年1月までには、公式ダウンロード数が1900万にも達した。しかも、これは米プロフットボールNFLの王者決定戦「スーパーボウル」で広告枠を2本買う前の数字だ。

「億万長者の気分」で買い物できるアプリ

 スーパーボウルで流された広告は、不思議なことに驚くほど平凡なCMで、米USAトゥデー紙の広告人気ランキング「スーパーボウル・アドメーター」で51本中50位に終わった。

 Temuの広告は基本的に、感じのいい若い女性がスマートフォンの画面でバーゲン品の数々をスクロールし、このアプリを使えば誰もが「大富豪のように買い物できる」と示唆する。そして、どこか陳腐なCMソングが流れる中、幸せな環境にいる人たちと自分自身のために何の苦もなく物を買える様子を描き出している。しかもTemuは、広告費がより高くつく2本目の枠でも、全く同じ凡庸なCMを再び流したのだ。

 では、Temuはいったい何を売っているのか。Temuが好む答えは明らかに、これは単におびただしい数のバーゲン品をショッピングする楽しいアプリだというものだ。だが、もっと完全な説明はそれより格段に面白い。そのうえ、Temuが正確に何を売っているのかを人にあれこれ考えてほしくない、という隠れた事実を浮き彫りにする。

 Temuを運営しているのは、約1180億ドル(約15兆9300億円)の株式時価総額を誇り、中国のモバイルEC大手「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」も傘下に抱えるPDDホールディングスだ。PDDは22年9月、真にグローバルなショッピングアプリを目指す最初の一歩として、米国とカナダで物を売るTemuを立ち上げた。

SHEINと比較されるビジネスモデル

 Temuは中国発の新興アパレル「SHEIN(シーイン)」と頻繁に比較される。SHEINと言えば、ファストファッションのセレクションとZ世代(1990年半ばから2010年代前半生まれ)からの人気の高さで最もよく知られる。徹底した価格重視と回転率の高いビジネスモデルが、環境と労働者に負の影響を与えることで物議を醸したことでも、有名なECサイトだ。

 Temuも同じように、中国や世界中のメーカーから、消費者が商品を直接買えることを軸にビジネスモデルが築かれている。見落としがちだが、この点は実際に例のスーパーボウルのCMでそれとなく触れられている。ギフトを受け取った幸せそうな顧客が箱を開けると、カラフルな工場への玄関口みたいなものが一瞬開き、笑みを浮かべた労働者がTemuブランドの付いた別のパッケージを差し出してくる場面だ。

 よくよく考えてみると、これはどこか不穏なビジュアルだ。消費者が日なたで浮かれ騒ぐ中、下働きの労働者が視界と頭の中から隠され、いわば“日陰”に置かれているからだ。だが、CMソングの歌詞は、何を買ったとしても「メーカーから直接届く」という明るい響きを持たせている。いずれにせよ、これはTemuのビジネスモデル(SHEINのビジネスモデルでもある)の副産物ではない。モデルの中枢そのものだ。米ワシントン・ポスト紙のシラ・オビデ記者は最近、「こうしたアプリが提供する価値の核心は、中国のメーカーと業者が全世界に物を売ることにある」と指摘した。

この記事は会員限定(無料)です。

7
この記事をいいね!する