
多くの商品で値上げが続き、折しも消費者の財布の中身が四方八方から圧迫されている中、米メタ・プラットフォームズが運営するFacebookとInstagramが、他社に続き、かつて無料だった機能についてもユーザーに課金し始めた。なぜ今、課金に踏み切るのか?
SNSには果たしてどれくらいの価値があるのか。それも投資家にとっての価値ではなく、ユーザー自身にとっての価値はどうか――。
投資家にとっての価値については、最近のハイテク株の軟調な動きにもかかわらず、著名なSNS企業の市場価値は数千億ドル単位に達している。それに対し、一介のSNSユーザーとして、あなた自身はFacebookやInstagram、Twitterなどを日々利用するために、いったいいくら支払ってもいいと思うか。
その答えがゼロだったとしても意外ではない。SNSの草分けであるFriendstar(フレンドスター)やMyspace(マイスペース)の時代から、広告収入に支えられたSNSによって、我々はそう考えるよう訓練されてきたからだ。
サブスクを新たな収入源に
しかし今、この力学を変えようとする企業にFacebookとInstagramを運営する米メタ・プラットフォームズが加わった。巨大な規模に達した広告事業が最近苦戦する中、メタはユーザーに対してサブスクリプションサービスを試験提供すると発表した。特定の最新機能やカスタマーサポート、アカウントが本人のものであることを認証するデジタルバッジ、そしてマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)の言葉を借りると「あなただと名乗るアカウントに対する追加のなりすまし対策」の使用に対し、ユーザーに月間11.99ドル(約1619円、両サービスではほぼ24ドル[約3240円]に達する)課金する。これはもちろん、月間8ドル(約1080円)の「Twitter Blue」サービスの一環として、イーロン・マスク氏がおなじみの認証チェックマークの有料版を導入したことに追随する動きだ。
この新たな収入源の模索は理解できる。デジタル広告市場は全般的に軟調になり、米アップルが「iOS」端末に追跡拒否オプションを導入したことで、広告依存型のデジタルビジネスは大打撃を受けた。この流れが複数の企業を刺激し、アドオン型の有料化実験が続々と打ち出されている。米Voxメディアは最近、「Snapchatは新機能への早期のアクセス権をサブスクライバーに与え、YouTubeは広告表示を減らし、(米国発のチャットサービス)Discordは利用者のチャットチャンネルでカスタマイズのオプションを増やしている」と指摘した。
「SNSは無料」という根強い意識
だが今のところ、サービスを無料で使えるという考えがSNSブランドにかなり深く根を張っているようだ。2022年11月、マスク氏の熱心な信奉者は、ステータスシンボルとされるもの(プラスいくつかの追加機能)を買える能力は買い手の群れを呼び込むとの理論に基づき、例の認証チェックマークをマネタイズ(収益化)する同氏の計画は当然うまくいくと考えた。
だが、ことはそうは運ばなかった。米の技術専門メディア「ジ・インフォメーション」は23年2月、サブスクリプションを払っている米国のTwitterユーザーはわずか18万人程度で、「月間アクティブユーザーの0.2%に満たない」と報じた。これでは米ツイッターが大手広告主の半数を失った穴をとても埋められない。
消費者がどのデジタルコンテンツにお金を払うか、払わないかをめぐる議論は、様々な複数階層の「フリーミアム」モデルに関する議論と並び、Webそのものと同じくらい古くからある。確かに、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)から米動画配信大手のネットフリックスまで、サブスク主導の成功物語は存在する。だが、ユーザーには課金せず、ユーザーのアテンションを獲得するために広告主からお金を取るビジネスモデルは、検索の巨人である米グーグルから無数のメディアサイト、娯楽プラットフォーム、スポンサー付きアプリに至るまで、SNS以外でも広く成功を収めてきた。
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