
世界中で話題を集めたディープフェイク動画「DeepTomCruise」などを作った英メタフィジックが、トム・ハンクスとロビン・ライトが再び共演するハリウッドの新作映画「Here(ヒア)」で、AI(人工知能)生成コンテンツについに主役を演じさせる。今後のAI生成コンテンツの可能性を広げる取り組みだ。
「TikTok」で少しでも時間を費やしたことがある人なら誰でも、「DeepTomCruise」に見覚えがあるだろう。映画「ミッション:インポッシブル」で有名なスター俳優トム・クルーズが「ウェンズデー」(Netflixの人気ドラマ)のダンスを踊ったり、アメの中にガムが入っているのを発見したりするディープフェイク動画のことだ。AI技術の達人であるクリス・ユーメ氏と俳優のマイルズ・フィッシャー(技術の助けがなくてもトム・クルーズとよく似た顔をしている)によって制作されたDeepTomCruiseは、2年前の2021年に公開されたとき、爆発的に流行して何億回もの視聴回数を稼いできた。
パロディー動画を支えるディープフェイク技術の高度さを考えると、これは恐らく当然の疑問だった。より若く、光り輝くトム・クルーズを生み出した企業である英メタフィジックを長編映画に起用し、下手な特殊効果と感じないような形で、大勢の俳優を実年齢よりもはるかに若く(あるいは年寄りに)見えるようにしたら一体どうなるか――。
20代から80代までを1人で演じる映画
この仮説に対する答えが23年、映画「Here(ヒア)」という形で出る。とある部屋と、時をまたいで部屋に現れた人、部屋で起きた出来事を描いたリチャード・マグワイアのコミックを原作にし、大物俳優トム・ハンクスが主役を務める新作映画だ。ロバート・ゼメキスが監督し、米ミラマックスが制作する映画では、トム・ハンクスはロビン・ライトやポール・ベタニーといった共演者とともに、1人の男の人生における様々な年齢(20代、30代、50代、そして80代)を演じなければならない。
ユーメ氏と共同でメタフィジックを創業したCEO(最高経営責任者)のトム・グラム氏によると、ゼメキス監督のチームが「ある日、電話をかけてきて」、制作への協力について尋ねてきた。チームは例のDeepTomCruiseのほか、メタフィジックが人気テレビ番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で手がけた仕事――AIを駆使し、若返った司会者サイモン・コーウェルを作って歌わせたり、エルビス・プレスリーを蘇(よみがえ)らせて競わせたりした――を見て、メタフィジックが映画のために何ができるか知りたがったのだという。
できることはかなりあった。新作映画ヒアは、AIがハリウッド映画でこれほど中心的な役割を果たす初のケースとなり、視聴者はほとんど気づかないとはいえ、事実上、作品が観客に与える印象を決定づけている。グラム氏いわく、鍵は「トム・ハンクスの演技を守りながら、20歳バージョンを本人の上に作るように技術を使う方法を見つけること」だった。
「3DやVFX(Visual Effects、視覚効果)、CGI(Computer Generated Imagery、CGで生成した画像)を使ってこれをやると、『ベンジャミン・バトン』や『ジェミニマン』を思い浮かべるといいが、大抵はどこか演技が失われたような感じになり、不気味または奇妙に見えてしまう。我々はこうした問題を解決しなければならなかった」(グラム氏)
また、最も高度なものになると、VFXは法外に高額でもある。グラム氏は映画でAIを利用すると、VFXを用いた特殊効果のコストが2割減ると話す。
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