米ファスト・カンパニー

企業やブランド同士のコラボレーションはごまんとあるが、米ティファニーと米ナイキのパートナーシップは、他の組み合わせよりも際立つために必要な要素を十分に持っている。

発売予定の「ティファニー×エアフォース1」。薄緑がかったティファニーブルーでナイキのシンボルのスウッシュが入ったスニーカーだ(出所/ティファニー公式サイトから)
発売予定の「ティファニー×エアフォース1」。薄緑がかったティファニーブルーでナイキのシンボルのスウッシュが入ったスニーカーだ(出所/ティファニー公式サイトから)

 著名モデルたちが闊歩(かっぽ)するキャットウォーク(ランウェイ)など忘れていい。最近では、ファッションが発生している場所は米プロバスケットボール協会(NBA)の「トンネルウォーク」だ。

 NBAは2023年1月末、同年3月7日に発売予定のティファニーとナイキの新たなコラボレーション作品をレブロン・ジェームズ選手が全身にまとい、米ニューヨークにあるマディソン・スクエア・ガーデンの地下道を歩いている様子を映したInstagram動画を公開した。なめらかな革の袖がついた黒いレターマンジャケットには、容易にそれと分かるブルーのティファニーのブランディングが盛り込まれている。

 足元は未発売の「ティファニー×エアフォース1」で決めた。薄緑がかったティファニーブルーでナイキのシンボルのスウッシュが入ったスニーカーは1足400ドル(約5万2000円)で販売される。ナイキによると、コラボにはスターリングシルバー製の限定版シューズアクセサリーも含まれ、250~475ドル(約3万2500~約6万1750円)の靴ベラや靴ブラシが発売される。

LVMH帝国の御曹司が陣頭指揮

 ジェームズ選手の歩きは明らかに、両ブランドによって振り付けされていた。ティファニーとナイキのコラボは動画公開の24時間前に発表されたばかりで、コラボの新作コレクションで選手を飾り立てることはファンとメディアの興奮をかき立てる巧みな作戦だった。両社のパートナーシップが取り上げられたニュースの量を考えると、この戦略は奏功しているようだ。

 他ブランドとのコラボはティファニーにとって比較的新しい戦略で、フランスの高級ブランド複合企業LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが21年1月に、創業186年の歴史を持つ米高級宝飾品ブランドのティファニーを買収したときに始まったものだ。買収に伴い、LVMHの会長兼CEO(最高経営責任者)の息子に当たるアレクサンドル・アルノー氏(30歳)がティファニーのプロダクト・広報担当副社長に就任した。

 それ以来、アルノー氏はティファニーから続々と打ち出されるコラボの陣頭指揮を執ってきた。イタリアのフェンディやスイスの高級時計ブランド、パテックフィリップといった高級ブランドとのコラボもあれば、米国のシュプリームやダニエル・アーシャムといったストリートウエアブランドとのコラボもあった。スポーツ用品大手の米ウィルソンとのコラボでは、ティファニーブルーのバスケットボールとアメフトボールを作った。

マスマーケットブランドとの初のコラボ

 ナイキとのパートナーシップが注目に値するのは、ティファニーにとって初めてのマスマーケット(大衆市場)ブランドとのコラボで、より幅広い若い消費者と関与できるようになるからだ。多くのコラボと同様、その目標は埃(ほこり)っぽいイメージがつきまとう老舗ブランドに新たな生命を吹き込むことだ。また、たとえファッション産業がブランドパートナーシップで飽和状態にあるとしても、アルノー氏はコラボを際立たせるコツを把握しているようだ。

 「我々は少しずつ、米国唯一の高級品ブランドとしてティファニーが過去の約200年間にやってきたことすべてを生かし、これを現在に持ち込み、文化的なツァイトガイスト(時代精神)の一部にしようとしている」とアルノー氏は話す。

 アルノー氏にとっては、これは新しい戦略ではない。同氏は16年、LVMHがドイツのスーツケース会社リモワを買収した後、同社のCEOに就いたときにコラボ作戦に乗り出した。リモワはフランスのルイヴィトンからシュプリーム、イタリアのオフホワイトまで、ありとあらゆるブランドと組んだ。またフランスのナサシーズンズや日本ブランドのユナイテッドアローズなど、比較的小さな独立系アーティストやブランドともタイアップした。

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