
広告主は一般的に、自社の広告が世間で物議を醸すことは避けるし、政府や裁判所といった強い“権力”と正面から衝突はしたがらないものだ。しかし、ショート動画をはやらせた立役者であり、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」については、例外を設けているようだ。
どれほど大きな人気を誇っているにせよ、中国のバイトダンスが運営するTikTokに批判的な人はいる。それも非常に深刻な、これ以上の懸念は抱けないほど強い懸念を抱く批判派が、歴として存在している。
TikTokは中国政府のスパイマシンか?
これはソーシャルメディアに対するお決まりの不平不満(誤情報や疑わしいトレンドといったもの)ではない。中毒性のあるアプリは既に、全米19州で政府端末での使用を禁止されており、複数の州立大学のキャンパスで使用が制限されている。加えて2022年末にジョー・バイデン大統領の署名によって成立した23会計年度(22年10月~23年9月)の歳出法は、数百万人の連邦政府職員が政府機関の端末でTikTokを使用することを禁じた。
根本的な懸念は、中国企業が所有するTikTokが中国政府によるデータ収集のスパイマシンとして使われる恐れがあることであり、マルコ・ルビオ上院議員の言葉を借りれば、親会社であるバイトダンスが中国政府の「操り人形」として機能することにある。同議員は22年12月に出した声明で、「北京にコントロールされているTikTokを永遠に禁止するときが来た」と述べている。
TikTokはインドで全面的に禁止されており、バイトダンスは「解雇された不良従業員」によってジャーナリストなどによるいかがわしいデータ追跡があったことを認めている。米メディアのVoxは最近、「このところ、一見すべてのビッグテック企業が前代未聞の厳しい目を向けられているが、TikTokは同業者とは異なる反対派に直面している」と指摘した。
その一方で、少なくとも一つの重要な層は米国でTikTokについて全く懸念を抱いていないように見える。それは広告主だ。
オンライン広告全体が低迷するなかで躍進
広告業界の専門メディア「ディジデイ」は、無数のTikTok批判派とは裏腹に、マーケターはTikTokの広告枠購入に「お金をつぎ込むことをやめられない」とし、「それも、そうした広告費に対し、米国と中国の間の緊張を高める方向に作用するという意味で、各方面から大きな疑問符がつくにもかかわらずだ」と指摘している。ここ最近、オンライン広告費が全般的に減速しているにもかかわらず、複数の広告主と広告会社がTikTokでのマーケティングキャンペーンへの支出意欲の高まりを報告している。
米国の市場調査会社コーウェンの最近のリポートによると、米国の広告主50社を対象に調査を実施したところ、より慎重な支出計画を立てているにもかかわらず、似たようなTikTok人気があり、対象企業の60%が望ましいショート動画媒体としてTikTokの名前を挙げたという。情報サービス会社スタンダード・メディア・インデックスは、22年11月時点で、大手広告会社のSNSへの支出に占めるTikTok(バイトダンス)のシェアが9ポイント跳ね上がって11%に達したと報告している。
個々の広告会社を見ると、このシェア急増がもっと著しい会社は珍しくない。ある広告会社はディジデイに対し、TikTokは自社クライアントの23年のSNS広告予算の約25%を占め、金額ベースで22年から50%増加すると語っている。別の広告会社は具体的に、TikTokへの支出増加には、従来ならTwitterに向けられていたかもしれない広告費が含まれ、これを「TikTokが自社の広告ビジネスに引っ張り込むことができた」と指摘した。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー