
人間による作品であることを示すハッシュタグが一種の無言の抗議になった。そして世界中のコンセプトアーティストやイラストレーターが、AI(人工知能)による生成画像の氾濫に対して、「ときの声」を上げる事態になっている。
Instagramのフィードに表示されるすべての投稿に「#nofilter」という誇らしげなハッシュタグがついているように思えたのは、そう遠い昔ではない。おびただしい数の加工処理された写真やSNSによって永続させられるうわべの完璧さに対する反乱行為として、インフルエンサーは未加工の夕焼けの写真を投稿し、セレブはノーメークでセルフィーを撮るためにポーズを取った。
SNSを席巻するAI生成画像への反乱
そして今、世の中にあふれ返るAI(人工知能)生成画像が、この対話のギアを1段上げた。問題はもはや、誰かが写真の写りを明るくしたとか、コントラストを調整したとかいうことではない。そもそも誰がその写真を撮ったのか、あるいはこの芸術作品を作ったのかが問題になっている。
「DALL・E2(ダリ・ツー)」や「Midjourney(ミッドジャーニー)」のような生成AIシステムの驚異的な台頭は、クリエイター社会において別の類いの反乱に火をつけた。そして、この反乱を世に伝えるには、また別のハッシュタグを使う以上に良い方法があるだろうか。
新たに誕生した「#artbyhumans」の広がり方は、#nofilterの途方もないレベルにはまだ達していない。このハッシュタグがついたInstagram投稿は、本稿を書いている時点で4500件程度で、現在、#nofilterのタグがついた2億8000万件以上の投稿の足元にも及ばない。だが、#nofilterが始まったときと同じくらい、完璧に時代精神をとらえている。また、「#notoaigeneratedimages」や「#humanart」「#noAI」といった似たようなハッシュタグの大きなエコシステム(生態系)の一部でもある。
自分の作品に#artbyhumansを使う人にとって、このハッシュタグは一種の無言の抗議となり、著しいAI人気から悪影響を受け、場合によっては脅かされているように感じているコンセプトアーティストやイラストレーターにとっては、「ときの声」となった。
AIに仕事を奪われる不安
オランダの首都アムステルダムを拠点とするフリーランスのコンセプトアーティストで、この記事ではアーティスト名の「Diepfris(ディープフリス)」を使うよう求めてきた男性は、2022年9月にこのハッシュタグを使い始めた。当初は一部の投稿に#noAIのタグをつけたが、この言葉が伝えるネガティブなメッセージが気に入らなかった。それよりは#artbyhumansの方が「はるかにエレガント」だったと話す。
ディープフリスは工業デザイナーとして10年以上働いた後、ゲーム向けアートの制作に転身した。彼のInstagramは「ブレードランナー」と「スターウォーズ」のマッシュアップ作品に登場してもおかしくないように見える、入念に手で描かれたSF風の車やマシンに満ちている。1年前には、彼の作品を発見した人が、この作品が人間によって描かれたかどうかを疑うことはまずなかった。今では、AIによって描かれたと思い込んだ人がいても責めることはできない。ディープフリスの作品が標準未満に見えるためではなく、AI生成画像が標準レベルに達したように見えるからだ。
「AI画像生成ソフトのアウトプットの質が高まるペースは驚異的で、不安になる」とディープフリスは言う。同じ分野で働く多くの人と同様、AIがいつの日か複雑なブリーフ(広告などの概要)に対応できるようになり、彼のようなコンセプトアーティストの仕事を時代遅れにするのではないかと心配している。「アートディレクターはただ普段準備しているブリーフを使い、それをAIにフィードすればいい。仕事の進め方がそのように変われば、コンセプトアーティストのサービスは基本的に不必要になる。職業としてのコンセプトアートは死に絶え、大勢の人が仕事にあぶれることになる」。
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