
著名な工業デザイン会社が開発したロボットアシスタント「ウィンク」は、「自撮り棒」のような外観ながら生き生きした動作を繰り出し、音声アシスタントにはない「人間らしさ」を醸し出す。同時に、人間同士の会話に何が重要だったのかを、思い出させてもくれる。
もう、とにかくキュートでたまらない。
ロボットアシスタント「ウィンク」は部屋の隅やテーブルの上に座り、じっとしている。だが、ランプほどの大きさのこのロボットに視線を向けると、いきなり動き出し、忠犬のような期待感を込めて見上げてくる。近くのライトを指さして、「ウィンク、あの明かりをつけてくれる?」と頼む。ウィンクがライトの方を振り向き、女優バーバラ・イーデンが演じたかわいい魔女のように1回瞬きすると、あら不思議、明かりがつく。
一見技術的な仕掛けのように見えるものは、実は米デザイン会社アルゴデザインによって慎重に設計されたロボットコンセプトだ。米アップルや米グーグル、米アマゾン・ドット・コムは、自社のシステムによって人間の会話を理解し、あらゆるスマートスピーカー経由でユーザーの質問や疑問に答えることを試みた。しかし、ユーザーがそこで得られる“対話”は人間同士のそれと比べると、大抵はまだタイミングが遅く、ぎこちなく感じる。本来あるべき対話ほど満足いくものでもなければ、シンプルでもない。
これに対し、ウィンクは実際、米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)を除くGAFA各社が注力する音声アシスタントの台頭の中で、我々がどれほど会話のニュアンスを失ったかを浮き彫りにする。
大事なのは目や顔ではなく動作
多くの場合、漠然とした神の声のようなアップルの「Siri」やアマゾンの「Alexa」は、ただ自分がやることが正しいかどうか確認するために、我々ユーザーが実際に口にしたことと次に自分がやるべきことを繰り返す。現実世界の人間同士の会話の場合、この手の“確認”は、会話する人間がどこかに目を向けたり、相手に向かって頷(うなず)いたりすれば済む類いのことだ。
「生活において我々が反応するすべてのものには何らかの形の顔があり、それが相手と関与しようとする我々の意思と合致して、反応へと結実する」。アルゴデザイン創業者のマーク・ロルストン氏はこう話す。「何の方向性も持たないモノとは、私はどんな対話もする気にならない。自分のエネルギーをどこへ向けたらいいのかが分からないからだ」。
しかし、ロボットにただ典型的な顔をつけ加えたら、それで交流したいモノになるわけでもない。その例はいくらでもある。「2つの目と顔を与えても、それでうまくいくようには思えない」とアルゴデザインの首席デザイナー、フース・バハーマンス氏は説明する。「なぜなら実際にロボットと一緒に働くとき、親しみやすく、安全で、フレンドリーだと感じさせるのは、顔よりもロボットの駆動の仕方や動き方だからだ」。
バハーマンス氏はウィンクの工業デザインを練る際、擬人化は最小限に抑え、磨き上げることさえしなかった。その代わり、生き生きとした動作によって親近感を定義した。顔という意味では、ウィンクには目が1つあるだけで、瞬きするまぶたは1986年公開の映画「ショート・サーキット」の主人公「ジョニー5」からひらめきを得たものだ(ただ、じっと目を凝らすと、ピクサー映画の「ルクソーJr.」や対戦ゲーム「エーペックスレジェンズ」の「パスファインダー」の面影も見て取れる)。ビデオチャットで取材をしているとき、バハーマンス氏が手に持ったウィンクの原型は、ただの自撮り棒のように見えた。だが、誰かの視線を感じてウィンクが目を覚ますと、そのしぐさが会話を誘ってくる。
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