
『ビジョナリーカンパニー』の著者であるジム・コリンズ氏は、1980年代後半から米アウトドア用品大手のパタゴニアを観察してきた。そして今、同社の最近の抜本改革を、もし成功すれば、他の創業者にも刺激を与えるかもしれない「壮大な素晴らしい実験」と呼んでいる。
代表作に「Built to Last(ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則)」「Good to Great(ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則)」があるジム・コリンズ氏は、米スタンフォード大学経営大学院の起業家精神に関する講座でパタゴニアのケーススタディーを執筆し、学生に教えた1980年代後半からずっと、ビジネスに対する同社の独特なアプローチを記録してきた。
パタゴニアが自社ブランドを使って社会的な変化を促した方法について、米ファストカンパニー(FC)の姉妹誌である米インク誌に論文を寄せ、2021年にFCが掲載したインタビュー記事ではパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード氏のことを「正しくなされた」リーダーシップの模範として挙げた。
コリンズ氏は熱心なロッククライマーでもあり、シュイナード氏が1972年に記した「クリーンクライミング」のマニフェストの初版を持っている。このため、シュイナード家が議決権付き株式を特別な信託に、残りの株式を非営利団体に譲渡すると発表したとき、FCはすぐに考えた。ジム・コリンズはこれをどう見るだろう、と。
コリンズ氏はこのほど、インクとFCのCCO(最高コンテンツ責任者)を務めるステファニー・メータの単独取材に応じ、シュイナード氏のレガシー(遺産)について、そしてこの型破りな起業家が「エグジット(出口)戦略」という言葉の定義をいかに塗り替えたかについて語った。以下にインタビューの抜粋を紹介する。
畏怖さえ覚える経営者、5年ではなく50年の物語
ステファニー・メータ(以下、SM) パタゴニアの独立性と気候変動・環境保全に対するコミットメントを守るよう設計されたこの独特な構造によって、シュイナード家が会社の所有権を手放すというニュースを聞いたとき、最初にどんな感想を持ちましたか。
ジム・コリンズ氏(以下、JC) 創業者が去った後まで価値観、パーパス(存在意義)、誠実さが続くようにする構造を設置しようとする考えは、「永続するよう事業を築く」哲学の大々的な実践を象徴しています。私の反応は尊敬の念でした。イヴォンは、その純粋さにおいて私がとても畏怖を感じる人です。
SM 確かに非常に一貫していますね。
JC 自分の目的が何であるかという理解の明瞭さが、非常に長期にわたって一貫した判断につながっている。私の妻ジョアンは即座に、シュイナードは成長に拍車をかけるために経営権を譲渡したわけではなく、それが彼に自由を与えたと指摘しました。また、彼は成長そのものを追求しなかった。成長は素晴らしい商品、素晴らしい業務遂行、そして見事なブランディングの賜物(たまもの)であり、それが一貫したペースでの事業拡大の燃料になり続ける利益率とキャッシュフローを生んだのです。これは5年間の物語ではない。50年間の物語です。車の後部座席でピトン(登山家を支える金属製のくさび)を売ることから始めて、衣類その他の商品に広げていった。支配権を維持しながら、一貫して物事を積み重ねていくことで、自分の会社の目的と合致する意思決定を下す自由を得られるんです。
SM 今回の対策はどれほど画期的なのでしょうか。前例がほとんどないようですが。
JC これを壮大な素晴らしい実験と呼びましょう。憲法が書かれたときも実験だった。それまで存在しなかったため、うまくいくかどうか100%は分かっていなかった。
私たちは普通、イノベーションといえば商品や技術の革新を思い浮かべる。本当にクールな新素材の使い方やバイオテクノロジー薬品の次の波といったものです。けれど、企業史の長い歩みに目を向けると、商品のイノベーション以上に重大なのは組織のイノベーションです。
シュイナード家の所有構造の再編がうまく成功すれば、一部の企業にとって新たな進化になるかもしれない。そうした企業が時間とともに進化する形が変わっていくかもしれない。これはパタゴニアの「R1」ジャケットよりもはるかにインパクトが大きい。ちなみに、私は今まさにR1を着ているのですよ。すごく気に入っています。
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