
TikTokのロゴは、昨今の“デジタル文化”において最も認知度が高いロゴの一つになった。部分的には、図らずもTikTokを宣伝した競合他社のおかげだ。
普通に考えて、最大のライバルを消費者に届ける配信ツールになりたいなどと考える企業は存在しない。
だが、TikTokと張り合おうとする初期の取り組みにおいて、Instagramが取った選択肢は、まさにそうした結果を招くものだった。TikTok対抗策として打ち出した「Reels」は、TikTok向けに制作されただけでなく、実際にロゴとユーザーネームから成るTikTokの「ウォーターマーク(透かし)」が含まれた動画を再利用するために、日常的に使われていた。Instagramは自社のプラットフォームの上で、事実上、ライバルを宣伝していたわけだ。
Reels動画の3分の1が他社から拝借されたもの?
Instagramを運営する米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)は、この問題を解決しようとした。同社は「明らかに他社アプリから再利用されたコンテンツ(ロゴやウォーターマークが含まれるもの)はReels体験の満足度を下げる」という話を「聞いた」ため、競合他社のブランドが付随した動画を「発見しにくくする」と発表した。
だが、この問題はなかなか消えず、ここへ来て再び表面化した。リークされた最近の社内文書「クリエーター×Reelsステート・オブ・ザ・ユニオン2022」などを材料にした米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道のおかげだ。WSJによると、この文書は「Reels動画の3分の1近くが別のプラットフォーム、通常はTikTokで制作されており、そうであることを示すウォーターマークかボーダー(枠線)が含まれている」と指摘している。Instagramのアルゴリズムはこうした動画の「ランキングを下げ」、視聴者数を抑えているものの、リサイクルされた動画はなかなか解消できない問題のようだ(一部のケースでは、ユーザーが他のクリエーターの動画を再投稿する)。
この状況は明らかに、Instagramが抱える喫緊の問題を悪化させるばかりだ。メタはしばらく前から、いよいよ恥知らずのコピーキャット(ものまね)へと変貌しつつあることで痛烈に批判され、冷笑されている。TikTokクリエーターはReelsのことを、何も分かっていないユーザーばかりの負け組フォーマットとしてあざ笑う。Instagramの超大物セレブインフルエンサーのカイリー・ジェンナーとキム・カーダシアンが「Instagramを再びInstagramにしろ」とか「TikTokになろうとするのをやめろ」といったユーザーの声にお墨付きを与えたのは有名な話だ(もっとも、TikTok自身も最近、他社アプリを多少まねている)。このため、オリジナルなReelsコンテンツ(あるいは、少なくとも露骨に再利用されていないもの)の制作と投稿を促す努力が、Instagramのブランドを守るうえでますます重要になっている。
TikTokの驚異的な成長のカギ
だが、こうした状況のすべてが、Instagramがミスを犯したという話だけではないところに、注目する価値があるだろう。これは自社ブランドの宣伝でTikTokが成し遂げた成功の証しでもある。あの押しつけがましいウォーターマークは(くねくね動く簡略版ロゴを含めて)、どの動画でもデフォルトで終始スクリーンに表示される。多くのTikTok動画のデザインがごちゃごちゃしていることを考えると、ユーザーに邪魔だと思われてもおかしくなかったが、不満もなく受け入れられたようだ。そしてやがて、このウォーターマークのおかげで、TikTokのロゴは間違いなくデジタルカルチャーにおいて最も認知度が高いロゴの一つになった。
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