米ファスト・カンパニー

米アマゾン・ドット・コムは新番組「リング・ネーション」で、ポップカルチャーを活用して悪名高い監視用ドアベルを軽い娯楽のネタに変え、人々の間から監視されているという意識をなくそうとしているのかもしれない。

玄関に設置されたカメラ付きドアベル「Ring(リング)」
玄関に設置されたカメラ付きドアベル「Ring(リング)」(出所/Shutterstock)

 「普通」の会社にとって、自社商品を主役に据えたテレビ番組を持つことは、絶対にかなわない夢だ。だが、米アマゾン・ドット・コムは普通の会社ではない。

 その最新の証拠が、新しいテレビ番組に関する最近の発表から出てきた。コメディー女優ワンダ・サイクスが司会を務め、監視社会のひねりが組み込まれた「アメリカズ・ファニエスト・ホームビデオ(米国ABC局の視聴者から募集した自作ホーム・ビデオによるコンテスト番組)」風の番組がそれだ。カメラ付きドアベル「Ring(リング)」で撮影された面白い動画だけで構成されるという。

 2022年9月下旬に放送シンジケーションでデビューする新番組「リング・ネーション」は、2つの理由から注目に値する。まず、この番組は、目が飛び出るような企業の力によって支えられている。アマゾンはカメラ付きドアベルのRingを製造・販売する米リングを傘下に抱えているだけでなく、番組を手がけるスタジオ(MGMテレビジョン)と制作会社(ビッグ・フィッシュ・エンターテインメント)も所有している。

 これはアマゾンの資産がどれほど広く、遠くまで及ぶようになったかをまざまざと思い出させる話だ。だが、同時にこのことは、同社がもう、悪の帝国呼ばわりされること(あるいは政府規制当局)について、心配しているようには振る舞わなくなった新たな証拠でもある。

プライバシー問題で批判浴びてきたリング

 2点目は、この形で表れる企業のシナジーが、リングを社会に浸透させ、ブランドとして確立させるための大胆な作戦も兼ねていることだ。約10年前に創業され、18年にアマゾンに買収されたリングは近年、プライバシー問題の活動家や巨大ハイテク企業の批判派の格好のターゲットになっていた。こうした活動家は基本的に、ビデオカメラを玄関先の一般的な機能にすると、(実際には見られていないかもしれないのに、監視されていることを常に意識せざるを得なくなる)「パノプティコン(一望監視施設)」社会が誕生すると訴えてきた。

 さらに、米政治サイト「ポリティコ」によると、米国では2000以上の警察が、リングが提供するアプリ「ネイバーズ」を利用している。ユーザーはリングで撮影した動画を投稿し、コメントを残す。すると、「警察がアラートを送り、動画の提供を求めるためにアプリを使える」のだという。

 さまざまな監視団体は、一般市民による監視と法執行機関が結びつくと、人種プロファイリング(人種や民族への先入観から犯罪を疑う行為)を生みかねないと訴えてきた。それ以上に物議を醸すのは、アマゾンが何度か、カメラの所有者の了承を得ずにリングで撮影した動画を警察に提供したことだ。

 その結果、驚くまでもなく、米ファスト・カンパニーが過去に報道してきたように、リングはプライバシー問題について痛烈な批判を浴びるようになった。米デジタルメディア「VICE」の典型的な批判記事には、次のように書かれている。

 「荷物の窃盗と郊外の犯罪に関する恐怖をあおる作戦を用い、監視企業が無数の世帯を説得し、各地の警察と世界最大級の独占企業が自らの利益になるように使う監視ネットワーク・ノードを取りつけさせた」

 テレビ番組リング・ネーションのデビューに当たっては、米メディア「ザ・ヴァージ」が似たような評論で、アマゾンは「監視国家を楽しいものにしようとしている」と主張した。

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