米ファスト・カンパニー

米アマゾン・ドット・コムは今や、米グーグル、米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)に次ぐ第3位のデジタル広告プラットフォームに躍り出ている。しかも同社の広告事業は、個人情報保護の問題に直面してこれまでのような急成長が見込めそうにないグーグルやメタと異なり、急成長している。

米アマゾン・ドット・コムと米ウォルマートという小売りの2巨頭が、店頭やWebサイトといった顧客との接点をリテールメディアと位置づけ、広告ビジネスに注力して、急成長を実現している(写真はイメージ、出所/Shutterstock)
米アマゾン・ドット・コムと米ウォルマートという小売りの2巨頭が、店頭やWebサイトといった顧客との接点をリテールメディアと位置づけ、広告ビジネスに注力して、急成長を実現している(写真はイメージ、出所/Shutterstock)

 「ウォルマートvsアマゾン」は、米国はもちろん世界のビジネス史を見渡しても、有数のライバル関係の一つだ。そして最近、小売業界の巨大企業2社が、新しい領域でも互いに競い始めた。広告事業がそれだ。

 人は普通、小売店を広告の掲載先とは見なさない。それに「リテールメディア・ネットワーク」と呼べるものの台頭は、静かに、徐々に起きている。このため、これまで消費者の間で、リテールメディアはそれほど意識されてこなかったかもしれない。しかし、特にアマゾン・ドット・コムはいつもの熱意をもって広告事業を追求してきた。

デジタル広告でも競い合う巨大小売企業

 読者の皆さんも注意して見れば、アマゾンのECサイトを検索したとき、「スポンサー」のラベルが付いた検索結果がたくさん表示されることに気づくのではないだろうか。こうした広告(および他の広告サービス)は明らかに奏功しているようで、アマゾンは2021年12月期決算で311億6000万ドル(約4兆1443億円)の広告収入を計上している。ある試算によれば、22年の広告収入は400億ドル(約5兆3200億円)に達する可能性もある。

 アマゾンは22年7月28日に発表した22年第2四半期(4~6月)の決算で、広告収入が前年同期比18%増の87億5700万ドル(約1兆1647億円)になったことを明らかにした。EC販売が振るわない中、同社にとって明るい材料になっている。もちろん、アマゾンの事業全体と比べると微々たる数字だ。何しろ会社全体では、四半期の売上高が1200億ドル(約15兆9600億円)を超えている。だが、「Amazon.com」はそれでも、「Google」「Facebook」に次ぐ規模を誇る第3位のデジタル広告プラットフォームになっている。

 「広告事業の力強い成長がまだ見られる」。アマゾンのブライアン・オルサフスキーCFO(最高財務責任者)は22年7月末の22年第2四半期決算発表の電話会議でこう語った。「もし多くの企業が広告費の合理化や最適化を検討しているとしても、ブランド構築といった長期的な要素を考慮しても、当社の広告プロダクトには高い競争力があると思っている」。

 片や米ウォルマートは21年1月期の広告収入が約21億ドル(約2793億円)で、間違いなくアマゾンを追い上げる立場にある。だが、23年第1四半期(2~4月)に前四半期期比で30%増加した広告収入は、全体的に冴(さ)えない四半期の数字において、ちょっとした明るいニュースだった(同社は8月発表の第2四半期決算も、予想より弱い内容になると警告していた)。

 21億ドルという広告収入もやはり、巨大小売りチェーンであるウォルマートが21年1月期に計上した5591億5100万ドル(約74兆3671億円)の売上高全体からすると微々たる数字だ。だが、決して取るに足りない規模ではない。米CNBCは大局的に数字を捉えるために、21年には米スナップの広告主導ビジネスの売上高全体が41億ドル(約5453億円)、米ピンタレストの売上高全体が26億ドル(約3458億円)だったと指摘している。

静かに台頭してきたリテールメディア

 巨大小売企業のライバル2社は、この戦略を追求する例外的な存在ではない。それどころか、両社は大きく膨れ上がるトレンドの先頭に立っているようだ。米広告大手のマーケティング・ブリューによると、米国の小売り大手上位10社のうち9社(クローガー、ターゲット、ウォルグリーン、ホームデポなどが入る)が現在、独自の「メディアネットワーク」を運営している。この展開は最近まで、一般に思われるほど多くの消費者の関心を集めてこなかった。だが、これは隅々にまで届ける広告のリーチを示す新たな実証であるうえに、消費者と小売企業の関係に広告を差し込むことについて興味深い疑問を投げかける。

 アマゾンは、21年12月期決算で事業の内訳として広告収入を切り出す前に、何年も広告の実験を重ね、同カテゴリーを模索する取り組みを年々強めてきたようだ。米調査会社インサイダーのリポートによると、検索広告がまだ広告収入の大半を占めているものの、アマゾンは「トゥイッチ」や「ファイアTV」などの傘下メディアへの広告出稿や、クラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」のインフラ上に築かれた広告データ分析機能も売り込んでいる。

 最も際立つのは、アマゾンは広告主に対し、会社のオンラインキャンペーンの効果をほぼリアルタイムで分析し、その結果に沿って内容を調整するために使える購買データを与えられることだ。食品スーパー「アマゾンフレッシュ」店内のデジタル広告とショッピングカートのスクリーンを介して、広告ネットワークをオフラインでも展開する実験にも乗り出している。購買データに代表される、消費者の行動を示すさまざまなデータを得られることが、広告主が急拡大しているリテールメディア広告市場をしっかり注視しておくべき理由の一つだ。

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