
スウェーデンの家具大手イケアが、強力なユーザー体験を提供するアプリを通して、散らかった家の中を、流行を扱う雑誌にも載せられるような模様替えのための真っ白なキャンバスに変える。
スウェーデンの家具大手イケアが今、筆者の犬を消した。いや、イケアの助けを借りて自分で消したと言うべきか──。
筆者の飼っている体重34キログラムのゴールデンレトリーバーは、保護具のエリザベスカラーをつけて正面玄関のそばに座っている。子どもたちは革製のソファの上で「ニンテンドースイッチ」に興じている。背景には靴箱――自分では本当に気に入らない家具だが、家族のガラクタを片付けるために不可欠になったもの――があり、リビングルームの光景を静かに非難している。
その光景を映し出していたアプリの画面を1回タップすると、すべてが消え去り、最初に家を買ったときと全く同じ、空っぽの部屋が残された。実は今、2022年6月下旬に公開されたイケアの最新アプリを使って部屋をスキャンしたところだ(Web上でも似たような機能が公開された)。確かに家族を消去するのは不安な気持ちになるが、想像力を働かせる余地が大きく広がる。
次にアプリ上のリビングの空間に、イケアの新しい家具をドラッグ&ドロップしてみる(家具はAR[拡張現実]によって配置される)。すると、確かにこれは、過去の判断の重みを背負うことなく模様替えをするための、かなり便利な方法だと認めざるを得ない!
家具を動かさず、巻き尺も使わずに模様替え
大半のアプリのアップデートは記憶に残らないものだ。だが、イケアの新アプリには「IKEA Kreativ」という名の新しいAI(人工知能)機能が搭載されており、自分の想像力だけを頼りにせず、まさに絵に描いたような完璧な部屋をつくれるよう、家の中のどんな部屋も空っぽにし、箱やプランター、家具を消し去ってくれる。
ここに至るまでのプロセスは、瞬時ではなかった。まず、部屋の写真を何枚か撮り、パノラマ画像を組み立てるように異なる写真の端をそろえなければならなかった。次にアプリの画面に奇妙な形の「8」の字が浮かび、その8を大きく描くようにカメラを振るよう指示され、さらに右方向へ数歩移動して同じことを再びやるよう指示された。
イケアから新たなリクエストが出るたびに、これが本当にうまくいくのか自信を失っていった。そして手順をすべて終えた後もまだ、データ処理のためにさらに10分間待たなければならなかった。
だが、面倒な作業が完了したとき、イケアが約束していたことをかなり実現したと認めざるを得ない。アプリのエディター内で、部屋にある物体にはすべて輪郭線が描かれている。個々の家具(あるいは目立たない犬)をタップして消すことができる。次に何度か画面をタップすると、ソファや鏡台、エンドテーブルなどが満載されたイケアのデジタルカタログが出てくる。こうしたアイテムはすべて3D(3次元)で表示されるため、数千ものイケア商品を部屋にドラッグ&ドロップすることができ、商品が適切な遠近感で自動的にサイズ調整される。
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