
米ファスト・カンパニーの独占インタビューで、米アマゾン・ドット・コム傘下で自動運転車を開発している米ズークスの工業デザインチームが、競合他社とはまるで異なるユニークなライドシェア車両を形作る細部について語った。
私は未来を見た、それは馬に引かれる昔の「ワゴン」とそっくりだった──。
これは筆者の例えではなく、「ズークス(Zoox)」の背後にいる8人のデザインチームが頻繁に自分たちの自動運転車を描写する言葉だ。2014年に創業され、20年に米アマゾン・ドット・コムによって12億ドル(約1560億円)で買収された米ズークスは、ゼロから自動運転車を開発するために10年近い歳月を費やしてきた。その目標は車を売ることではなく、米ウーバーや米リフトに挑戦する未来のライドシェアサービスを築くことだ。
自動車がどう設計されるかについて、根本から疑問を投げかけるメーカーは少ない。電気自動車(EV)はフロントエンジンが不要で、正真正銘の自動運転車には前を向いた座席が必要ないにもかかわらず、今日の自動運転車はまだ旧来の自動車をモデルにして作られている。米アルファベット傘下のウェイモはミニバン「クライスラー・パシフィカ」を改良し、自動運転に必要なレーザーやコンピューター、ありとあらゆるスクリーン、センサーを据え付けている。一方、EV大手のテスラはカメラを使い、より目立たない自動運転技術を車両に組み込んでいるが、自動車の古典的なシルエットを維持している。
一方、ズークスはそのような制約を自らに課さなかった。おかげで同社は道路上を走るどんな車とも違うユニークな車両を開発できた。人間サイズのトースターに似た車だ。
ズークス車は小型セダン「BMWi3」より小さく、フロントからバックまで完全に対称で、車の向きを変えずに乗客を前方、または後方に乗せていくことができる(デザインの対称性は、車の生産に必要な部品の種類が少ないことも意味する)。車両の両側面の大型自動ドアがスライド式で開くため、サンルームと同じくらい入りやすく、車両の内部はまさに馬車のようにベンチ型シートが2つ向かい合っている。だが、設計についてこれだけ型破りな決定を下したにもかかわらず、ズークスは公道でデビューする前に衝突試験で五つ星の評価を得られると考えている。
「これがゼロから構築するデザインの恩恵だ」。ズークスのスタジオエンジニアリング担当幹部兼工業デザインチームリーダーで、今回、車両デザインの細部について説明してくれたクリス・ストフェル氏はこう話す。
巨大な電子機器のように設計されたワゴン
多くの意味で、ズークスのフォルムは説明を要しない。これはワゴンそのもの(つまり、車輪に乗った部屋)で、それゆえワゴンのような形をしている。一方で、車の設計は巧妙にホイールウエルに空気を流し、空気力学を保っている。
工業デザインチームのシニアリーダー、ナウエル・バッタグリア氏は、車両のシルエットにひらめきを求める代わりに、「我々はむしろプロダクトの美学、消費者向け電子機器でしっかり確立されているものを狙った」と語る。実際、柔らかな印象にもかかわらず、デザイン全体は、手のひらのサイズに縮小して遊べるガジェットのように感じる。
この印象は、車両のすべての角からアンテナのように突き出している4つのセンサーポッドによって一段と強調されている。このデザインの決定は怠惰なように思える。「LiDAR(ライダー)」深度カメラやその他のセンサーをなぜ車両のフォルムに統合しないのか――。
だが、ズークスのチームは自社のアプローチを、フォルムが機能に従属する典型的なケースとして描く。エンジニアは個々のセンサーの視野を最大化し、車両自体がセンサーの視界を遮らないようにする必要があったため、四隅に1つずつカメラを設置するよう要求したのだという。個々のセンサーポッドは周囲270度の視界を持つ。これは過度なまでに安全性を重視し、各ポッドの視界が重複することを意味している。
この目立つポッド設計のもう1つの恩恵は、クリアな視界を保つために独自の洗浄液を備えたモジュラー設計になっていることだ。車体に組み込まれていないことから、修理のためにポッドを容易に取り外すことができ、技術の進化とともにアップグレードできる。ズークスは車両が約65万キロメートル走行すると推計しており、それゆえ修理が可能でなければならない。
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