
企業とそのブランディングの間にどうやって線を引くのか──。ロシアで今、かつてマクドナルドとして知られていたファストフードチェーンがその答えを見つけようとしている。
1988年公開のエディ・マーフィーの主演映画「星の王子ニューヨークへ行く」の印象深いシーンで、マクダウェルという名の怪しいほど見覚えのあるファストフード店のオーナーが、世界一有名なハンバーガーチェーンとの「ちょっとした誤解」にもかかわらず、自分の店は全く違うと説明する。
例えば、米マクドナルドが「ビッグマック」を売っているのに対し、マクダウェルは「ビッグミック」を売っている(ビッグミックのバンズにはごまがついていない)。そして明るい黄色でカーブを描く「M」の字のロゴを指さして、真顔で言い放つ。「彼らのロゴはゴールデンアーチだが、わしのはゴールデンアークだ」──。
ロシア事業の売却で「アーチ外し」
見まがいようのないマクドナルドのブランディングと曖昧な知的財産法を突いたこの滑稽なセリフが頭に浮かんだのは、マクドナルドがロシアから完全に撤退し、同国市場のライセンシーであるアレクサンドル・ゴバー氏(現在シベリアで25店舗のマクドナルドを経営している地元企業経営者)に事業を売却するというニュースが伝わったためだ。米CNBCによると、ゴバー氏はマクドナルドのロシア店舗を「新たなブランド」で運営する。
マクドナルドはロシア事業を売却し、最大で14億ドル(約1792億円)の評価損を計上すると発表したとき、「現地の店舗で『アーチ外し(de-Arching)』のプロセスを始める意向だ」と強調した。これは新たなオーナーが「マクドナルドの名称、ロゴ、ブランディング、メニュー」を使えないこと、そして同社が今後もロシア国内で商標権を維持するつもりでいることを意味している。
「アーチ外し」という言葉は若干ばかげて聞こえるかもしれないが、ロシアでマクドナルドのブランドを完全に解消することは極めて興味深い難題のように思える。確かに、他の資産(店舗や従業員、サプライチェーンといったもの)はリアルだ。だが、我々がここで話しているのは、資本主義の歴史上、最も名高く、有力で、馴染(なじ)み深いブランドの1つだ。アーチを外したマクドナルドとは一体どんな店なのか。そして、その答えのどれくらいが結局、何らかの形の「マクダウェル」になるのだろうか。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、マクドナルドは2022年3月、ロシア国内の6万2000人の従業員に給与を払い続けつつ、847店舗の営業を停止すると発表した(これらの店舗の84%がマクドナルドの直営店で、残りはフランチャイジーによって運営されている)。この暫定的な措置でさえ、その象徴的な意義は否定しようがなく、他の欧米企業に影響を及ぼした。今回、完全撤退を決めたマクドナルドの決断は、米コカ・コーラや米ヤム・ブランズ(「ピザハット」や「ケンタッキー・フライド・チキン」を傘下に抱える外食大手)など、やはりロシア事業を一時停止した他の欧米巨大ブランドに問題を投げかける。
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