
ハイテク企業の多くはこれまで、リアルな店舗での小売りビジネスに挑戦するも、悲惨な成績を残してきた。今回は米メタプラットフォームズが挑む。どんな形にせよ、メタの未来は、消費者がハードウエア商品を手に取って試しに使えるかどうかにかかっているからだ。
遅かれ早かれ、すべての巨大ハイテク企業が実店舗を使ったリアルな小売りビジネスへ進出し始める。
言うまでもなく米アップルの進出があり、全世界で500店舗以上の「アップルストア」は過去最大かつ最も破壊的な成功例の1つに数えられる。だが、アップル以外にも、米マイクロソフトが(2度も)進出したし、米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、韓国サムスン電子、そしてソニーグループの例もある。
今度は米メタプラットフォームズ(旧フェイスブック)の番だ。同社は2022年5月9日、一般向けの初の直営店「メタストア」をオープンした。場所は米国カリフォルニア州バーリンゲーム。1万7000人の従業員を抱えるメタの「リアリティーラボ」事業部門の敷地内だ。リアリティーラボはVR(仮想現実)端末「メタクエスト2」やビデオ会議端末「ポータル」、サングラス型端末「レイバンストーリーズ」の責任を負う部門で、新店舗はこうした商品を取り扱う。
メタストアの第1号店ではクエストとポータルを買えるが、奇妙なことにレイバンストーリーズは購入できず、興味を持った買い物客がいれば、店員がオンラインでの購入を手助けする(ストーリーズについては、レイバンを所有するエシロールルックスオティカが小売りの流通を掌握しており、メタは直接販売できないようだ)。
めったに成功しないのにリアルな小売りに手を出す理由
さて、ここで、リアルな小売り分野でのアップルの輝かしい成功が、ハイテク企業の間では決して一般的ではないことを指摘するまでもないだろう。大半のハイテク大手はやがて、小売りそのものへの関心を失う。ここ2、3年だけを見ても、マイクロソフトが全米の83店舗すべてを閉鎖し、ソニーグループも最後の米国店舗を閉鎖、アマゾンも米国の数十店舗を閉鎖している。そう考えると、1つの疑問が浮上する。めったに成功しないのに、ハイテク企業はなぜ実店舗を構えようとするのか――。
大方のケースでは、商品を売ることが一番の目的ではないようだ。当該企業は、顧客が自社店舗で商品をチェックした揚げ句、よそで購入することを気にしない。大事なのはむしろ、大型量販店ではめったに経験できないような愛情のこもったサービスで自社商品を披露することだ。こうした大型量販店では大抵、マーチャンダイジングとは、物語を伝えることではなく棚を埋めることを意味するからだ。
例えば1999年には、マイクロソフトはサンフランシスコの複合施設メトレオン内に開設した「マイクロソフトSF」を、コンピューターストアではなく「小売り環境」と描写し、施設は「インタラクティブな環境において技術がいかに我々の仕事、学習、生活、遊びを深められるかを示すことに特化する」と説明したスティーブ・バルマー氏(翌2000年にマイクロソフトCEO[最高経営責任者]就任)の言葉を引用した。
多くのハイテク企業の小売り進出は新たなプロフィットセンターを生むことが狙いではないことが、やがて各社が店舗をなくしてもいいと感じる理由なのかもしれない。オープンからわずか2年半後にマイクロソフトSFが閉鎖されたとき、マイクロソフトは米CNETの取材に対し、店舗――いや失礼、小売り環境――は「もはや会社の中核的なビジネスプライオリティーに沿わなくなった」と語った。
それから8年たち、アップルストアが一大現象となった後、小売りは再びマイクロソフトにとって優先事項になる。ただし、また優先事項でなくなるまでは、の話だ(3店舗は体験型施設「エクスペリエンスセンター」として残し、再度、商品販売そのものの重要性を二の次にした)。
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