米ファスト・カンパニー

BNPL(Buy Now, Pay Later:後払い決済)サービスは米国で“クレジットカードキラー”として始まった。しかし、実はこのサービスが「フェイスブック広告・産業複合体」を回避する巧妙な策だったとしたらどうか? 米大手小売企業や沈黙を守る米アップルをはじめ、多くの企業がBNPLに大きな期待を抱くであろう理由がそこにある。

BNPLサービスを提供する各社は、支払いのために顧客がスマートフォンにダウンロードしたアプリと電子メールを使って、顧客に対して効果的なマーケティングを展開できる(写真はイメージ、出所/Shutterstock)
BNPLサービスを提供する各社は、支払いのために顧客がスマートフォンにダウンロードしたアプリと電子メールを使って、顧客に対して効果的なマーケティングを展開できる(写真はイメージ、出所/Shutterstock)

 ショッピングモール文化の定番ブランドである米国のファッション小売り大手エクスプレスは、デジタル時代に向けて会社を全面刷新するミッションに取り組んでいる。ソーシャルセリング活動を手がけるインフルエンサー軍団を運営し、ピンク色のクロップトップスやスパンコール付きの大胆なブレザーをオンライン上で閲覧するという体験を、顧客にパーソナライズして提供するためにデータを活用している。

 このブランド刷新の最後の仕上げは何か──。「BNPL(Buy Now, Pay Later:後払い決済)」サービスの大手企業クラーナと組み、共同ブランドのデジタル広告を運営し、クラーナの「Pay in 4」サービス(会計の際、2週間に1回ずつ計4回の分割払いを無利息で提供する仕組み)をブランドの顧客に提供するパートナーシップがそれだ。

 「われわれはエクスプレスに対して特定の認識を持った顧客に、その認識を変える機会を与えたいと思っている」。エクスプレスのEC担当シニアバイスプレジデント、ブライアン・シーウォルド氏はこう語る。さらに「BNPLの導入で、購入する際に顧客が感じる大きなリスクを取り除いている」と言い、クラーナの利用を選ぶエクスプレスの顧客は平均注文代金が高いと指摘する。

ただの決済手段ではなく重要なマーケティングツール

 クレジットカードに代わる決済手段を買い物客に提供するBNPLは、誕生から10年足らずで全世界の1億人以上の消費者によって利用された。大半のBNPL企業は2つの消費者向けサービスを運営している。1つは、一般に少額取引の買い物を3回ないし4回の分割払いにする無利息サービス。もう1つは、家具のような比較的高価な買い物を分割払いにする利息ベースのローンだ。

 BNPL市場をリードする米アファーム・ホールディングスやオーストラリアのアフターペイ(米ブロック=旧社名スクエア=が290億ドル[約3兆7700億円]で買収)、スウェーデンのクラーナは今、ECサイトの至るところで見かける。一方で、決済大手の米ペイパルと米アップルの「アップルペイ」も独自のBNPLサービスを模索している。ブルームバーグ通信が2021年7月、金融大手ゴールドマン・サックスと組んでBNPLサービスを立ち上げるアップルの意図について報じたときには、アファーム株が10%急落した。

 だが、24年までに10億ドル(約1300億円)のEC販売達成を目指しているエクスプレスのような小売企業にとっては、BNPLは単なる追加の支払いオプションではなく、小売企業に欠かせないマーケティングツールにもなりつつある。クラーナは、通常ならInstagramなどのSNSやその他のデジタル広告に費やされたかもしれないお金を獲得することで、エクスプレスのような小売企業を支援する機会に飛びついている。

 22年2月時点で456億ドル(約5兆9280億円)の企業価値評価を与えられたクラーナは、自社のアプリと電子メールのニューズレターを使ってパートナーブランドを宣伝し、そこから生じた販売から少額の手数料を受け取る。クラーナの北米事業を率いるデビッド・サイクス氏は「われわれは今、取引先の決済部門トップと同じくらい頻繁にCMO(最高マーケティング責任者)と話をする。それは価値命題が進化したからだ」と話す。

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