動画配信サービスの巨人がついに、これまでの方針を改め、広告に支えられた比較的安い料金で利用できる新たな視聴者層を迎え入れようとしている。企業と広告代理店はこの機会を実験の場と捉え、従来なかった新しい広告メディアを生成できるチャンスを見いだそうとしている。

北米の視聴者数急減という事態に見舞われた米ネットフリックスは、2019年の大ヒットドラマ「Stranger Things」などで企業とのタイアップに取り組んだのに続き、今度は広告ベースの料金体系を導入して新たな視聴者層を獲得しようと考えている(写真はイメージ、出所/Shutterstock)
北米の視聴者数急減という事態に見舞われた米ネットフリックスは、2019年の大ヒットドラマ「Stranger Things」などで企業とのタイアップに取り組んだのに続き、今度は広告ベースの料金体系を導入して新たな視聴者層を獲得しようと考えている(写真はイメージ、出所/Shutterstock)

 今から7年あまり前の2015年ごろ、米ネットフリックスのリード・ヘイスティング共同CEO(最高経営責任者)は動画配信サービスに広告を流す可能性について、かなり決定的なコメントをした。「ネットフリックスに広告が入ることはない。以上」――。

 22年4月19日、同社は第1四半期(1~3月期)の決算報告で、3カ月前に予想したように契約者数を200万人以上増やすどころか、逆に20万人減らしたことを明らかにした。世界の契約者数を合算したことに紛れて見えにくくなっていたのは、北米で契約者数が60万人も減ったことだ。このニュースを受け、ネットフリックス株は即座に25%も急落した。

 ヘイスティング氏はこの状況を受け、考えを変えたと言ってまず間違いないだろう。「ネットフリックスをフォローしてきた人なら、私が広告のもたらす煩わしさに反対で、シンプルな視聴契約の”大ファン”であることを知っているだろう」。決算発表向けに事前録画されたインタビューで、同氏はこう語った。「だが、私がどれほどシンプルな視聴契約の”ファン”であっても、利用者はより広い選択肢を好む。安い料金を望み、広告にも寛容な利用者に対して、望むものを与えることは非常に理にかなう」。

 ヘイスティング氏はさらに踏み込み、広告がどこに、どんな形で表示されるかという問題に会社として対処する方法を示唆し、「われわれは純粋なパブリッシャーになり、しゃれた広告マッチングはすべて外部の人間に任せ、利用者についてのデータをすべて統合することもできる」と語った。

 会社にとって、そして「コマーシャルフリーゾーン」としての同社のブランドイメージにとって大きな変化になるものを発表するにしては、これは明らかに防衛的なやり方だった。われわれはこれまでに、ネットフリックスの株主が望んでいること、同社経営陣が望んでいること、そして観測筋が考える契約者の期待については散々聞いてきたが、広告に支えられたコンテンツについては、これを成立させる上でかなり重要なメンバーからほとんど話を聞けていない。広告主がそれだ。ブランドや広告主は、ネットフリックスが新たに導入するであろう広告ベースの料金体系を好む視聴者層に何を期待するだろうか。

 ヘイスティング氏とネットフリックスは、ブランドと広告がどのようにプラットフォーム上に登場できるかについて、オリジナルコンテンツへの進出につぎ込んだのと同じくらい大胆な思考をもって考えるべきだ。これは広告界からネットフリックスへの最後通牒(さいごつうちょう)ではないかもしれないが、それにかなり近いものになる。

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