
24人以上のハイテク企業創業者が計1億5000万ドル(約165億円)を超す米エイトスリープの資金調達に参加した。温度調節と睡眠データ、ゲーム化を提供するベッドが心底気に入ったからだ。この高機能・高価格ベッドの一体どこがすごいのか?
「死んだときにゆっくり寝ればよい」はもう廃れた。「一晩に8時間寝る」が新たなはやりだ。
ほんの数年前、いわゆる“ハッスル”文化は、人は休息よりも仕事を優先すべきで、もし人生の3分の1を寝て過ごすのであれば、それは無駄になった時間だと規定していた。世のCEO(最高経営責任者)と起業家の多くは、一晩に4時間しか寝ないことを自慢し、この態度は成功を目指すすべての人に浸透していた。ベンチャーキャピタル(VC)業界の詩人であるナズ(本名ナシール・ジョーンズ氏)の言葉を借りるなら、「僕は決して眠らない、睡眠は死のいとこだから」というわけだ。
運動と食習慣を変えたら残るは睡眠のみ
いくつかの要因が睡眠に対する態度の健全な変化をもたらし、それに伴い米エイトスリープの高性能ベッド「The Pod Pro」が台頭した(同社はこれをベッドと呼ばないが、どこかの伝統的な業界団体がそう呼ぶのをやめさせようとしているナッツミルクみたいなものではない。これは間違いなくベッドである)。
米アップルの「iPhone」が登場すると、スマートフォンのアプリとセンサーを搭載したアクセサリーが、自分の健康管理に興味がある人に基本的なツールを与え、即座に「クオンティファイド・セルフ(自己定量化)」運動が盛り上がった。自分の活動や状態をつぶさに記録するボディーハッカーたちは、まず運動を記録することから始めた。歩数の計測が大ブームになったときのことを読者は覚えておいでだろうか。そして次に摂食の最適化へ移行し、原始人の食生活を取り入れる「パレオダイエット」や糖質制限ダイエットの一種である「ケトダイエット」、さらには断続的な断食が人気になった(そうした食事療法も、もちろん、アプリで追跡する)。
運動と食事を調整した後には、大きく変化させることができる生活の側面は1つしか残されていない。睡眠がそれだ。筋金入りの仕事人間にさえ生活スタイルの見直しを強い、自分の全体的な健康に注目させた新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)と、この睡眠を変化させようという流れを組み合わせてみるといい。
栄養を扱うスタートアップ企業HVMNの共同創業者兼会長のジェフリー・ウー氏は2020年にエイトスリープのPodを買った。「どのみち、こうしたデータはすべて追跡していた(だからPodの購入でデータ収集が少し便利になった)」(ウー氏)。安静時心拍数や心拍変動など、エイトが測定する指標に言及して、ウー氏はこう話す。「パンデミックで死ぬのを防ぐ役に立つかもしれない」。
睡眠テックのトレンドが本格的に始まったのは15年、初代の活動量計バンド「Whoop」が発売され、指輪型ヘルストラッカー「Oura」やエイトスリープのベッド型トラッカーとスマートベッドカバーがクラウドファンディングに成功したときのことだ。こうした商品にはそれぞれのメリットがあり、それぞれの信奉者がいるが、エイトスリープと同社を売り込むハイテクインフルエンサー軍団が先陣を切っている。
完全に最適化されたエイトスリープ製ベッドは多くの顧客を刺激し、24人以上のハイテク創業者が出資した。エイトスリープはこれまでに1億5000万ドル(約165億円)以上の資金を調達している。クイーンサイズのベッドは2995ドル(約33万円)以上するが、同社で一番人気の商品はクイーンサイズのPod Proベッドカバー(小売価格1795ドル、約20万円)だという。
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