
サブスクリプション型ビジネスの草分けと呼ばれる米バーチボックスが、新興企業に買収された。浮沈を繰り返した10年の歳月から学べることは何か。成功するためには、サブスクモデルの採用だけでは不十分で、技術やコンテンツなどによって異なる付加価値を加える必要がある。
米Birchbox(バーチボックス)は10年間にわたって、きれいな箱に入った化粧品サンプルを届けるビューティーブランドとして知られてきた。だが最近、女性にターゲットを絞った新興スタートアップ企業FemTec Health(フェムテックヘルス)によって4500万ドル(約49億5000万円)で買収され、大きな転換点を迎えた。
バーチボックス共同創業者のカティア・ビーチャム氏はCEO(最高経営責任者)のポストを去り、残っている持ち株を売却して戦略的アドバイザーになる。フェムテックは、化粧品の領域を超えた「商品発見サービス」としてバーチボックスを刷新し、パーソナルケアとウエルネス(心身の健康)に事業を拡大する計画だ。
今回の買収に至るまでの過去10年のバーチボックスの歩みは、化粧品・美容業界の変化を反映し、同時にサブスクリプション型ビジネスに内在する落とし穴も浮き彫りにする。
バーチボックスは2010年、厳選した化粧品サンプルを箱に詰め、女性に(そして後に男性にも)届ける毎月定額払いのサブスクリクション型ビジネスを立ち上げた。この箱は、ある特定の問題を解決した。消費者が百貨店の化粧品売り場でやっていたような体験を、自宅でもできるようにしたのだ。気に入った商品が見つかったら、同社のECサイトでフルサイズの商品を買える仕組みだ。
このコンセプトは、消費者に即座に受け入れられた。事業は軌道に乗り、バーチボックスはその後の10年間でベンチャーキャピタル(VC)から1億ドル(約110億円)近い資金を調達することができた。また、同社の事業からインスピレーションを得て、アダルトグッズから靴下まであらゆるモノを扱う数百もの“サブスクボックス”が、同社を模倣する格好で登場した。
だが、一時は5億ドル(約550億円)近いバリュエーション(企業価値評価額)がつけられていたバーチボックスの実際の買収価格は、その1/10程度。これまでに調達した資金総額の半分にも満たなかった。
主要なセールスポイントにならなかったサブスクモデル
市場分析会社リテールネクストのインサイト部門を率いるローレン・ビタル氏は、バーチボックスは本当にうまくいくビジネスモデルをなかなか見つけられなかったと話す。消費者が気に入った商品を見つけるのに手を貸すことが、サブスクの目的だったとも指摘する。ところが、ひとたび気に入った商品を見つけてしまうと、消費者はもうバーチボックスが送って寄越す“箱”を必要としなくなった。また、こうした商品はどこでも買える商品なだけに、あえてバーチボックスを使い続ける必要もなかった。
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