
米ナイキは2021年に開催される新しいオリンピックのために、20年に用意した古いデザインを再利用したくなかった。ナイキの決断により次に起きたことが何だったのか、紹介しよう。
米ナイキのCDO(チーフ・デザイン・オフィサー、最高デザイン責任者)を務めるジョン・ホーク氏がチームとともに仕事に取り掛かったのは、2016年に開催された夏季オリンピック・リオデジャネイロ大会が終わった2カ月後のことだ。20年東京大会に向けて計画を立てるのに4年足らずしか時間がなかった。ホーク氏にとっては、ナイキが関わる8回目のオリンピックとなるため、世界最大の国際スポーツ大会が世界最大のシューズブランドにとってどれほど重要かを理解していた。
チームが組み立てたビジョンは、期待を裏切らなかった。20年2月、ナイキはオリンピックに向けたステートメントとなる新作「スペースヒッピー」を発表した。先鋭的で粗削りなコレクションで、裁断場のスクラップと古いスニーカーを砕いた再生素材で作られたシューズだ。目がくらむような鮮やかな色使いで知られるナイキ(読者の皆さんは、女子体操チームが12年に履いた蛍光黄色のシューズを覚えておいでだろうか?)は、染料を節約するために、スペースヒッピーを生成りの「リント」色で用意した。無駄を省くために極めて効率的なパターンで裁断された白いトラックスーツが、表彰台の上でスペースヒッピーを引き立てるはずだった。
ナイキはこの抑制の効いたデザインを「ローセンティック(手を加えないrawと、本物のauthenticを掛け合わせた造語)」と名付けた。スペースヒッピーは、発売第1弾がすぐに売り切れた。次に何が起きたか──。
コロナ禍による大会延期で一からやり直し
コロナ禍によって20年東京大会が延期された。その結果、大会が始まる頃には発売から18カ月たったことになるシューズのデザインは、もう最先端には見えない。大会開催時に派手な評判を取るには、とにかく古すぎた。
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