米ファスト・カンパニー

世紀の大発明、夢の乗り物とうたわれた「セグウェイ」ブランドは、冠商品である立ち乗り二輪車の生産を2020年7月15日に打ち切る。それでも、電動化など都市のモビリティ化が進む昨今、セグウェイの遺産は生き続ける。

セグウェイのイメージ(写真/Shutterstock)
セグウェイのイメージ(写真/Shutterstock)

 米アップル共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、「それ」は世の中にパソコンより大きな衝撃をもたらす発明になると言った。中には、アップルのパソコン「マッキントッシュ(マック)」以来、最も盛大に言いはやされた商品と呼ぶ人もいた。2000年には、世界を変えるであろう発明の、秘密に包まれたベールの中身について話題が盛り上がった。それは水素を電源とするホーバークラフトだとか、重力の法則そのものを覆す装置だといった臆測が飛び交った。

 ふたを開けてみると、それはおのずとバランスを取る、「セグウェイ」という名の個人用輸送装置だった。自宅の地下室で医療用点滴に使われる基幹技術を発明することで、既にあり得ないほどの富豪になっていたディーン・ケーメン氏が10年かけて開発した立ち乗り二輪車は、01年12月、1台5000ドル(約52万5000円)で発売された(セグウェイの最高速度が時速16キロしかないにもかかわらず、値段は低価格帯のバイクと同じだった)。ケーメン氏は当時、「セグウェイは自動車にとって、馬と馬車にとっての自動車のような存在になる」と豪語した。

 そして今、発売から20年もたたずして、セグウェイブランドは、我々の知っている最後のセグウェイである「セグウェイPT」の生産を終了する。本誌ファスト・カンパニーの取材で明らかになった。

 米ニューハンプシャー州ベッドフォードにある工場で、20年7月15日に生産が中止される。その結果、合計21人の従業員が解雇され、既に販売されたセグウェイの品質保証や修理などに対処するために12人が一時的に会社に残る。電動スクーターの「セグウェイディスカバリー」事業に携わる従業員5人は残る。

インクルーシブな原点

 インクルーシビティ(包摂性)から生まれたビジョンにとっては、これは苦々しい終わりだ。ケーメン氏の技術者チームは、セグウェイの開発より先に、利用者を人の目の高さまで持ち上げたり、階段を上ったりすることができる「iBot(アイボット)」という名の車いすを開発しており、車いすに組み込んだジャイロスコープの用途を変えれば、楽しく、小回りの利く立ち乗り装置を作れることに気づいた。

 ケーメン氏は、これが都市部で自宅と職場を行き来する究極の乗り物になると想像した。同氏はテスラ創業者のイーロン・マスク氏が今見せているような技術礼賛でメディアを席巻し、深夜にセグウェイを乗り回してみせた。そして21世紀を迎える頃、技術への楽観主義にあおられた時代に、セグウェイは瞬く間に不条理と必然が均等に感じられる「象徴」になった。

 だが、セグウェイは結局、数百万台はおろか、数十万台のペースで売れることさえ一度もなかった。ケーメン氏は09年に会社を売却。15年に再度売却され、中国のモビリティ企業、九号機器人(ナインボット)の傘下に入った。

 そして、セグウェイはケーメン氏が想像したような民主的な都市部のモビリティマシンにはならなかったものの、警備の世界と観光業に足場を見つけた。そう、アクションコメディー映画「モール★コップ」や、世界中の都市で見られたセグウェイでの観光ツアーは、本当にセグウェイの事業の重要な柱だった。