
新型コロナウイルス危機への対応で、主力商品の「ナイキエア」を医療用個人防護用具のフェースシールドに変えることは、限られた時間の中で目指した仕事を成し遂げる唯一の方法だった。
米ナイキのイノベーション担当バイスプレジデント(VP)、マイケル・ドナヒュー氏が1本の電話を受けたのは、ある月曜日の朝のことだった。新型コロナウイルスのために前の週にオフィスが閉鎖され、在宅勤務の生活が落ち着き始めていた頃だ。そこへ突然、電話がかかり、オフィスに呼び戻されることになった。ナイキは本社近くにあるオレゴン健康科学大学(OHSU)病院に個人防護具(PPE)としてフェースシールドを供給することに同意したが、1つ、問題が発生した。ナイキはこれまでフェースシールドを作ったことがなかったのだ。
手持ちのリソースだけでどう作るか
家具大手のイケアや米アップル、米フォード・モーターをはじめとした多くの企業と同様、ナイキはコロナウイルス危機に対応し、組み立てラインの一部を医療用フェースシールドの生産に振り向けた。現在までに全米各地の20以上の病院に29万個以上の医療用フェースシールドを供給している。しかも、その生産を1つの鉄則に従って、実行した。
「我々は自らに指針を設けた。ナイキだからこそできる支援について考えよう、既にどこかのサプライチェーン(供給網)に組み込まれている既存のソリューションを買い占めるようなことはしない、ということだ」。ドナヒュー氏はこう説明する。「自分たちが持っているサプライチェーン、なじみのある材料、持っているツールで、いかにしてこの問題を解決するかと自問した」。
そこでドナヒュー氏はチームと共にマスクと手袋を身に着け、数十点ものシューズの部品を作業台の上に広げ、ナイキのアパレル製品に使われる発泡樹脂、プラスチック、繊維なども合わせて、PPEの中の1つ、フェースシールドを作り始めた。昼までに、チームは20個以上の暫定プロトタイプを作った。その日の午後から夜にかけて、最も有望な試作品をOHSUの看護師たちに試してもらった。
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