
新型コロナウイルスで嫌というほど思い知らされたように、現在の「旅」はパンデミック(世界的な大流行)に向かない設計になっている。だが良い知らせがある。改善できるのだ。
米パデュー大学で機械工学を教える陳清焰(チェン・クィングワン、Qingyan Chen)教授は、空中を浮遊する病原体の見落とされている危険について説明するとき、シンプルな例えを挙げる。
「私が水の入ったコップを持っていて、一口飲んだとする。あなたは、この水を飲みますか。絶対にノーと言うでしょうね。けれど、部屋で私は息を吐いている。私たちは同じ部屋にいる。さて、あなたは息を止めていられますか。それは無理でしょう」
陳氏は、屋内環境研究の第一人者の1人だ。特に、飛行機のキャビンやクルーズ船のような空間で空気がいかに動くかを専門としている。その陳氏は今、世界的パンデミックに満ちた未来に向け、よりきれいな空気とより安全な旅を提供すべく、「交通」が再設計されることを望んでいる。
「飛行機、クルーズ船、バス、さらには地下鉄も、換気装置を根本的に変えるべきだと思う」。陳氏はこう話す。「現在の換気システムの設計はできる限り空気を混ぜようとしており、人は結局、その場の全員の息が濃縮された空気を吸い込むことになるからだ」
屋内環境への懸念から、陳氏は咳(せき)の数理モデルの策定など、極めて具体的な研究プロジェクトに取り組んだ。これは決してカクテルパーティーに適した話題ではないが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同氏は今、英BBCから米カーニバルコーポレーションまで、あらゆる組織に自身の見解を披露している。カーニバルは、所有しているクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号のお粗末な隔離措置で約700人の感染者と8人の死者を出した後、2020年3月10日になって陳氏に助言を求めてきた。
陳氏は自分のメッセージを伝えるのに懸命になっている。他の人が汚れた空気を吸い込む前に換気システムが適切に空気を吸い込み、フィルターで病原体を取り除かなければ、感染が拡大する、というメッセージだ。今こそパンデミックに備え、交通=人の輸送を設計し直すべきときだと。
共有される空気が問題
「COVID-19(新型コロナウイルス)」は主に、感染した人に触るか、感染した人が触ったものに触る、あるいは感染者が空気中に吐き出す微粒子を吸い込むことで感染するようだ、との見方で専門家らは一致している。こうしたタイプのウイルスの威力は、例えばウイルスに感染した“雲”で都市を丸ごと包み込めるような炭疽(たんそ)菌芽胞など、完全に空気中を浮遊する病原体として分類されるものには及ばない。
しかし、陳氏はインフルエンザ流行に関する研究で、狭い空間では、こうした区別にはあまり意味がないと警告している。窮屈な環境に置かれる旅では、とにかくウイルスを吸い込みやすいというのだ。
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